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職業【錬金術師】最大の魔法を眼前に疑う

 トトは巨大な羽根を背負って走り出す。

 手に持つスタッフは火属性。


「『火球』」


 その魔法は下位魔法といえど侮れない。

 周囲一体の草の根を燃やし尽くし、空気の破裂音を響かせる。


「やってくれるわね」

「『複製』、トト行ける?」

「もちろん」


 トトの付近を浮遊するスタッフが増える。

 土のスタッフを増やすと、トトに目配せする。


「『土撃』」

「いい、最高に強くなってる! 職業が進化している!!」


 草の根である触手が生える。土撃を受け流すと、触手はレッカの腕を掴んだ。

 レッカは表情を変えない。


「『複製』」


 自分の体を増やすと、触手に掴まれた個体を消す。

 レッカに拘束や状態異常は無駄である。それは彼女が本体を変えることが出来るからだ。


「シルフ! 立てる!?」

「あぁ、やってやるよ」


 状態異常を無効化する属性を付与する。

 シルフは毛を逆立てると、ハンマーをおもむろに振り上げた。


「あなたに興味はないのだけど。スキル、持ってるの?」

「スキル目当てか。最近はそういう輩が増えてるって聞いたぜ? 姑息なやつだ」

「違うわ、その考えが当然でしょ? 欲しいものを手に入れるためには当然の行動じゃない?」


 触手がシルフに絡みつくが、彼は自身の力で解く。

 レッカの攻撃力上昇のバフを受け取り、虎人としての力が増す。


「【虎渓三笑(こけいさんしょう)】」


 黒の模様が際立つ。

 彼の姿は猛獣。内に秘める鼓動が、地面を揺らす。


「どうなっても知らねぇぞ」

「見てみたいわ。あなたの本気」


 背後でセレナが立ち上がると、錫杖を掲げた。

 シルフに黄土色のオーラが立ち上る。運気上昇のバフは、シルフの攻撃を底上げする。

 トトは下がると、ガチャを回す。


「私も」


 トトのガチャ結果はステータス上昇の効果を持っていた。少女の願う結果が得られるのが『選定者』である。

 シルフのステータスが限界を超えて増す。彼を止めるものはもういない。

 そんな姿を見て、花は笑う。


「【複製】」

「っ! 私の……」


 今の複製はレッカの技ではない。ダリアの技であった。

 触手が増える。ダリアの表情は分からないが、楽しそうであることが伝わってくる。


「私の職業は【地面師(じめんし)】。エスには口止めされてるけど、あなたたちにだけ特別に教えてあげる」


 触手がシルフを襲う。彼は片腕で弾く。


「効かねぇ」

「残念だ」


 地面をヒビ割りながら走る。

 臆さない花は、触手をダリアを襲わせる。


「効かねぇって言ってんだろ!!」

「【開花】」


 直後、シルフの眼前に広がるのは数多のダリアの花。

 目線が奪われ、混乱を起こした。


「シルフ!?」

「あら、効いたわ?」


 セレナが回復するが、遅い。

 地面の方向が分からなくなる。耳元で甲高い音が鳴り、頭が上下を見失う。

 倒れるのは時間の問題であった。


「毒、麻痺、沈黙、盲目、鈍足、呪い。これらの状態異常を受けて、立っていられる方がおかしい。単純ねぇ」

「な、なんで! 効かないはず……」

「【錬金術師】は所詮その程度ってことでしょ? ごめんね、オレが上回ってんだ」


 ダリアが胸元から武器を取り出した。

 それは短刀、日本では特別『ドス』と呼ばれる獲物であった。

 触手にドスを握らせると、触手は思考を持つように移動を行う。

 ドスをダリアの腹部にゆっくりと突き刺していく。

 トトとレッカは走る。しかしそれを妨害するのも触手であった。


「虎渓三笑って意味、知ってる? あっはー、面白い。まるで茶番を見てるようだわ。ステージに立っているのは、オレだけど」


 気づいたときには、辺り一面が触手に覆われていた。第六層のように、動きが取れない。

 しかしそんなのはトトにとっては些細なことだ。


「『大火魔球(ヘルフレア)』」


 炎を焚き、辺りの植物を枯らしていく。

 だが、笑みを浮かべたのは、やはりダリア。


「【偽造】」


 彼のつぶやき後、触手は復活する。

 その数は消し去る以前と同じである。トトが怯む。


「どうして」

「無駄かなって。あなたの魔法、雑だし扱いやすいのよ」


 スタッフに触手を絡め、トトの遠慮はなくなる。

 少女の目元から光がなくなり、声が一段低くなる。


「トト! 待ってください!!」

「『灼熱大魔炎球ブラスト・インフェルノ』」


 スタッフに込められた魔力は絶大。

 その場にある全ての植物が瞬時に枯れ、シルフを避けた魔法はダリアを襲う。

 灼熱の炎球はダリアの皮膚を焦がし、頭に生えた花を枯らした。

 温度が高まり、講堂が悲鳴をあげる。空気が割れて、陽炎が皮膚を溶かす。


「っ――!!」


 ダリアの身体が炎に包まれているのが分かった。

 トトは確信する。レッカの方を向くと、彼女は唖然としていた。

 目はダリアから離れていない。


「体力は削れている。もうすぐやれるよね……?」

「私が燃やしたから。……どうしたの?」

「なんで正面から魔法を受けるの?」


 レッカの言葉のとおりである。

 講堂に響くのはダリアの笑い声。

 トトは振り返る。


「……っ」


 触手は再生を始める。ダリアの花が咲く。トトの身体は触手に包まれていく。


「うーん、絶好調」


 ダリアのダメージはゼロ。今の攻撃は無駄であったのだ。

 トトは自身の魔法を疑う。レッカは鑑定を何度も行う。


「シルフのスキルは要らないし、トトちゃんはスキルを持ってないのね」

「なんで分かるの」

「そう書いてあるもの。今回の襲撃は無駄だったわ。あーあ、また怒られる。嫌ねぇ」


 ダリアはそう言うと、触手の数を減らした。


「逃げるつもり」

「なによ、撤退だけど。まだいじめてほしいの?」

「逃さないよ」

「敗者の分際でそれを言うの? 冗談は種族だけにしてよ」


 階層を移動する。

 あとを追えない。追いたくないと思っていたのは、皆同じであった。

 シルフを回復するセレナは二人を見て声を漏らす。


「わ、私たちがいながら、こんな事……」

「いいや、私が弱かった。なにもできなかった」

「……」


 トトは口を閉じてスタッフを握りしめた。

 それから、アント達の襲撃の話を聞いて、彼らは第十階層へと集まることになる。

 まるで必然のようで、定めであるのは彼の筋書き通りであるから。

 彼は静かに行動を開始する。

 それは、弱者への救済であった。


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