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壊れた春に芽吹く、しずかな愛  作者: 婀娜
第二章 距離と優しさ
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第七話 流出

朝の会議室。

大型モニターには、真っ赤に沈むナスダックの数字が映っていた。

圭介が売りまくった「米ハイテク株連動仕組債」。

利回りの甘言に釣られた顧客の投資は、わずか数日の急落で一気に四十億の損失に化けていた。

「……現時点での被害額、四十億」

法務部長の声は、冷たく張り詰めていた。

役員たちの視線が一斉に圭介に突き刺さる。

「中村、お前、顧客に“元本保証に近い”と説明した記録があるな」

「契約条項には一切そんな保証はない。これは虚偽説明と取られても仕方がないぞ」

圭介は額に汗を浮かべ、必死に抗弁した。

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! “ほぼ”って意味で……それに相場急落なんて誰も予想できなかった!」

だが、その声は誰の耳にも届かなかった。



昼過ぎ、さらなる報告が社内を震わせた。

「……社内資料が外部に流出しました」

若手社員が青ざめて報告する。

そこには、圭介がリスクを十分把握していたことを示す内部メモ、

そして顧客に「安心安全」と口先で誇張して売っていた営業記録が含まれていた。

会議室に重い沈黙が落ちる。

圭介の心臓が跳ねた。

(……みくる。あの女か……!)

慌ててスマホを取り出し、みくるの番号を押す。

だが返ってきたのは、無機質な音声だけ。

《おかけになった電話番号は、現在使われておりません》

「……は?」

耳に響くアナウンスに、背筋が凍った。

何度かけても同じ。

昨夜まで笑顔で腕に絡みついてきた女は、煙のように消えていた。

(最初から……俺をハメるために近づいてきたってのか……?)

だが答えは出ない。

資料はすでに外に出てしまった。

そしてそれを握っているのは、弁護士・橘凛だった。



会議室に戻った圭介を待っていたのは、冷酷な宣告。

「中村。君には“自宅待機”を命じる」

役員の一言に、圭介は言葉を失った。

肩書も信頼も、足元から音を立てて崩れていく。

エリート街道を突き進んでいたはずの人生は、ついに奈落への坂を転げ落ち始めていた。


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