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カウントゼロ  作者: Co.2gbiyek
2048bit
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20/25

バットトリップ

 母親が高校に入ったのは1986年だった。父さんは同じ高校の1つ年上だ。普通科の母親が夏休みの講習で進学クラスの父さんと出会う。二人はそれ以来ずっと一緒だった。1999年に俺が生まれた。俺が小学生の頃に父さんがよく言っていた。インターネットのせいでこれから俺たちはどんどん惨めになるんだろうな。その言葉が頭から離れなかった。みんながいうことと逆だったからだ。父さんはビジュアライズされたOSが出る前からPCを使っていたし、インターネットが普及する以前のPC通信からネットワークを利用していた。俺にも積極的にそれらを使わせるような人だった。使いこなせなくて卑屈になって反発していた人達とは根本的に違った。


 学校が世界の全てではなくなったあたりからだんだんとその意味が分かるようになった。それは小学生が中学生になったということを意味しているわけではなかった。それまでネットに接続していなかった人たちがスマホを使ってネットに接続するようになったのが始まりだ。みんなが必要としていたのは知人と通話するデバイスではなく、ネットに接続できるモバイルデバイスだった。電話と言う形をとって侵食するように個人にPCが普及した。


 普通の人が世界中のことをリアルタイムに知ることが出来るようになって、そのうちそれらをキュレーションしてまとめたサイトや一次情報の意味が理解できなかった層をターゲットとした、わかりやすく、かみ砕いて説明する人たちが現れた。


 そのおかげで、誰もが起きた事象の意味が分かるようになるとともに、誰もが自分が何者であるか、その属性を認識させられる。そうすることで世界の中での自分の現在地とその順位まで知ることになった。


 絶対的な正解があり、どれだけそれに近づけるかが基準になる。正解を知ったうえでどれだけやり込んでいるかがステータスであり、それが新しい価値観を作り始める。学校内や友達内だけで流行っていたものは田舎臭い奇妙な儀式として目に映り、拒否反応を示すようになる。内輪固有の価値観は不正解であり、共感する余白が亡くなりそのうち消えていった。


 考えることと、正解を検索することが同じ意味をさすようになり、思春期を迎えると同時に強制的に子供でいることを追われて、どこまでも行けるという希望が無くなった。


 選択できるようになった情報ソースから、事実の中でも自分にとって価値があるものだけを選んで信じ始めるようになる。自分の価値にそぐわない情報源の価値が下がり、最大公約数を取り続けていたテレビを選んで見る人はいなくなった。


 海津市から出ようともしなかった母親を思い出す。母親は自分の周りの事が世界だったのだ。グローバル化なんて知りもしないだろうし、知ったとしてもどうでもよかったのだなと考えると、父さんが母親を好きでい続けた理由が少し分かった気がした。


 契約している情報ソースから一般公開されていない新型AIに関する内容が流れている。政府や大手の金融機関へ提供を始めるという。信頼された特定の機関向けということは、制約事項を外した上で提供しているということだ。リカにミウラの状況を追えるか連絡を入れた。


 ハセガワ・ヒカリもうんざりしていた。興味もわかない妙なかたちのストリートファッションブランドを着てカメラの前に立つのも、いい匂いだけが取り柄のシャンプーを持って笑顔を作るのももう限界だった。提供されたシャンプーはすべて捨てて帰った。髪質がいいのは生まれつきでこんなシャンプー使ったこともない。モデルと言っても知名度もなく168cmの身長では本物のモデルの仕事は回ってこない。全てにイライラしているし、不安定な状態だったので気分転換にラウンジに出ることすらできなかった。


 調べていた有料情報サイトの記事に目がとまった。それは新型AIについての情報だった。これが一般利用されるようになればシステムを外部にさらすなんて不可能になる。守る方も同じレベルのAIを使うだろうが、攻撃する方が断然有利だ。スポーツを思い浮かべてみればすぐに分かる。ざまぁみろだ。サインバルタをストロングゼロで流し込み、ストローを投げ捨てる。


 システムもネットも全て壊れてしまえばいい。SNSはいくらつぎ込んでも1万人から全く増えずに国内ブランドにすら見向きもされていない。冷蔵庫からもう一本ストロングゼロを取り出し、新しいストローをさして飲んだ。今まで集めたワインを全て飲んでしまっていた。鬱の方が来るといつもこうだ。どうせ私には最初から何もないのだという訳の分からない不安に飲まれそうになり、椅子の上で膝を抱えて必死で耐えていた。


 抗うつ剤とアルコールでふわふわとする頭で必死に考える。不安ということはコルチゾールが分泌されているということだ。そうであればアスピリンで分泌を抑えるができるはず。そう考えて不安をかき消そうと鎮痛剤と抗うつ剤を飲み続けているが、不安は大きくなるばかりで、意識がもうろうとしていた。


 口からこぼれたアスピリンを拾おうとして床に落ちていたスマホを見つける。犬から連絡がきていることに気が付いた。


「以前の依頼の続きが2つある。まだ追っているか?」


 手付を振り込むことで返答をする。まずクラタが死んだことが分かった。追加の振り込みを行うとミウラ・ミカが異動になったこと、そして現在は東北大学病院に入院中だということを知った。調べると東北大学病院は宮城県警と連携先だった。和らいでいく不安を少し不思議に思いながらも恐ろしさが期待であり、期待が不安を和らげてくれるということを知った。


 東京駅でミウラの家のカギを渡した日の事を思い出した。不安定な状態になっていた私は八重洲口で朝日を浴びるSを見て目が奪われた。思い返せばその時も不安が和らいでいた。私は期待していたのだ。Sは何も言わなかったが私には分かっていた。


 偶然とは思えないタイミングでSからミウラが追えるか連絡が来る。ミウラの状況を伝え、Sの返答を見て開けたばかりのストロングゼロをキッチンに放り投げて天を仰ぐ。不安が全くなくなったことに気が付いた。ようやく私の役目が見つかった。私は天命を受けて使徒になる。


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― 新着の感想 ―
新型AIって、Claude Mythosのことですね。 Anthropicはsecurity-guidanceなんてClaude Code用プラグインも出して 注目を集めてますが、これらがストーリーに…
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