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カウントゼロ  作者: Co.2gbiyek
2048bit
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17/26

死x1

 昨日の夜中に、おばあちゃんが亡くなりました。ついさっきまで色々やることがあってやっと落ち着いたところ。川上医院の紹介で田原町の老人ホームにおばあちゃんに入居してもらっていたの覚えている?サトルも何度か来てくれたよね。


 最後の1か月はね、おばあちゃんを見ていて本当に赤ちゃんみたいだなっておもったのよ。ほっぺたなんかほんとにつるつるして、ほんのり赤くって、すごく血色がよかったの。


 胃ろうにしてしまって後悔していたんだけどね。ご飯も食べられなくなって、寝たきりになって、そこまでして生きたいっておばあちゃん思っているのかなって。ここのところは何にも覚えてなくて、うんうん頷くばかり、言葉もほとんど話せなくなってね。ヨコタさんのところの赤ちゃん見たからよけいに、ああ、あかちゃんと同じなんだなって思ったの。何もできない、しゃべれもしない赤ちゃんで生まれてきて、またしゃべれなくなって、記憶も全部交じり合ってだんだん忘れて死んでいくって思ったらなんかうまくできているのねって納得しちゃった。


 記憶もぐちゃぐちゃになっていたのよね。3年位前からもう私のことも思い出せなくなっていたの。私の事、ヨリコさんって言うのよ。ヨリコさん覚えているでしょ?お父さんのお姉さんの。おばあちゃんのことは私が一人で最後まで介護していたのにね。一度も顔見せないヨリコさんと間違えているのよ。嫌になるわよね。娘の私の事を覚えてなくて、どうして他人の事なんか覚えているんだろうね。


 お母さんのお兄ちゃんも去年死んでしまっているでしょ?それで考えてみたら私の家族ってもうサトルだけになってしまったのよね。そう思ったらお母さんなんか急に張り合いがなくなってしまったというか、一人になっちゃたような気がしてね。ほら、あんたは自立するのが早かったでしょ。お父さんがいなくなっちゃったのも関係あるよね。


 サトル、あなた悪いことしたんでしょ?あの人たち警察の人だったんでしょ?お母さん聞いちゃったの。盗み聞ぎするつもりじゃなかったのよ。お茶のお替り持っていこうと思って。そしたら男の人がおっかない声出すんだもの。カネマツってあれよね。スーパーよね。こっちにも市内の方にはあるからいったことあるのよ。こないだテレビでやっていたから知ってるの。


 テレビでサイバー攻撃?ってやつだって言ってたわよ。あんたそういうの詳しいの知ってるから、ああ、そういうことかってお母さんでも分かったわ。まさかそんなの嘘よねと思ったから、帰りに聞いちゃったわよ。サトルが犯人なんでしょうか?って。笑って、違いますよって言ってくれるってそう言ってくれればいつも通り、元に戻るって、期待していたけど違ったわ。すみません、まだ捜査段階なので、ってはっきり言わないのよ。違うなら違うって言うでしょ。すみませんって何よ。はっきり言いなさいよって。お母さんカッとなっちゃって。出て行けって怒鳴っちゃったわよ。それで、そのまま夜中におばあちゃんのことでしょ。お母さん昨日から頭が変になっちゃたわよ。


 あんた、ほんとに何でそんなことしたの?あんたの名前もテレビに出るんでしょ。こんな田舎で周りの人にお母さんなんていわれるかわかんないからほんとに怖い。イワクラさんなんかに知られてみなさいよ、あることないことみんなに言いふらして回るわよ。あの人おしゃべりだから。考えただけでお母さん息が苦しい。ほんとになんてことしてくれたの。


 お母さん、お父さんのことでほんとにいろんな我慢してきたのに。おばあちゃんに来てもらって、あんたの事何とか育てて、ようやくおばあちゃんのことちゃんと出来るようになったと思ったら、そのおばあちゃんはもういないし、お兄ちゃんもとっくにいない。サトル、お母さんもう疲れちゃったわ。


 電話を切ってすぐに海津に向かった。実家の庭に咲いたびわの花が濡れている。母親の趣味で庭の花の手入れはされているがしばらく見ない間に外観はずいぶんと古びてしまった。小学生のころに父さんと建築中に見に来ていた。何の心配もなく、取り繕う必要もない、心はいつも晴れていた。寝て起きればまた別の日が来た。玄関の扉に手をかけて長年の雨の跡でくすんで色のついた基礎を見た。


 締め切ったままのカーテンの隙間から夕暮れに向かう日差しが細く伸びている。まぶしく輝いてその他を余計に暗くくすんで見せている。あの日に見たのと同じようにふすまの隙間からリビングを覗き見る。外廊下の仕切りのふすま戸に人影が見えた。駆け寄って身体を支え、鴨居にかけたナイロン素材の青い洗濯用ロープを固定用のフックから外して下ろしてやる。


 涙は出なかった。父さんの時にはあれほど涙が止まらなかったのに。自分自身のせいなのにほっとした自分が恐ろしかった。電話口で最後に聞いた内容すら自分のことしか考えていないと思ってしまった。罪の意識に飲み込まれないように母親に対してずっとそう考えるようにしてきた。そうするしかなかったのだと言い聞かせているうちに、いつの間にそれが事実になっていた。あの日から自分の事しか考えていないのは本当は誰なのかようやく認めた。


 病院と警察で時間を取られて結局夜中までかかってしまった。4日後に火葬だけの簡素な葬儀を行うになった。その後、寺と納骨についての手筈をつけた。49日を過ぎた後、父親と同じ墓に入れるのが筋だ。母の兄も父さんと同じ墓に入っている。母方の墓はもうない。母にはほんとに何もなくなってしまったのだなと思うとようやく涙が滲んだ。


 翌朝、東京駅でリカからミウラの家のマスターキーを受け取る。リカの話ではここ3日ほどミウラは家に一度も戻っていないという。リカは詮索しない。その足で、タクシーを拾い、新大橋通沿いの交差点で降りて、通りから2本ほど入った住宅街のマンションに入った。


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