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カウントゼロ  作者: Co.2gbiyek
2048bit
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15/25

勇み足

 セキタから聞き出したサクライ・アキトのSNSアカウントの詳細情報が出てきたのは翌日の朝だった。カネマツの件をチラつかせて強い態度で運営会社に要求したのもあり、とても協力的な態度で情報を出してきた。SNSを介してセキタへの支払いに利用された決済サービス側のアカウントの詳細情報も同じタイミングで回答があった。外国資本のテック系企業は総じて反応が悪いことが多いので懸念だったが、これほど早く情報が出てきたのは驚きだった。日本支社にはディレクションの機能がないと思っていたがどうやら今は違うようだ。こちらとは大違いだ。

 

 決済サービス側の通信ログからアカウントの受発信に利用していると思われるモバイルキャリアの情報が残っている。端末固情報もセットで残っているのでモバイルキャリア側でもトレースをさせた。


モバイルキャリアの情報は、結局どれもサクライ・アキト名義だった。当然住所の記載も日本橋のサクライ・アキトが住んでいた免許証の住所と同じものだ。新興系のキャリアから物理的な郵送物を送ることはほとんどない。実際に住んでいる場所で契約してもそれほど困ることはないだろう。利用しているアクセスポイントも判明したが、利用エリアのカバレッジが広すぎて住居の特定には利用できそうにない。


 モバイルキャリアから持ち帰ったログやハードコピーの書類一式は膨大な量だった。クラタにも確認させているがあてにしていない。確かに2年前から契約が始まっている。おそらく偽物のサクライ・アキトが使っていたのは間違いがないだろう。データ以外にも返送用の封筒なども預かっていた契約書と同じ住所、氏名をつかっていることは明白だ。到底手掛かりになりそうにない。椅子に首を持たれて座る。手持無沙汰で手を伸ばした先に掴んだ何枚かの封筒を取り出してみていた。ふと消印に目がとまった。


「日本橋大伝馬町」


 これはサクライ・アキトからモバイルキャリア側に送り直しているということか。サクライ・アキトの住所は確か日本橋蛎殻町だったはず。日本橋は私の住んでいるエリアで生活圏だ。大伝馬町の郵便局は蛎殻町から20分は歩く距離だ。最寄りの駅は小伝馬町か馬喰町、東日本橋あたりだ。気になってサクライ・アキトから送っている他の郵送物がないか探した。3枚ほど見つけたが他も全て日本橋大伝馬町郵便局になっていた。


 その日のうちに、大伝馬町郵便局で写真を見せて聞き込みを行い、サクライ・アキトを覚えているという担当者を見つけた。月に1度くらい収入印紙を購入して郵便封筒を出していたので覚えているという。恐らくサクライ・アキトが派遣会社のブートフォックスに月々の契約書を出していたのだろう。契約書の枚数がやたらと多くて、毎月契約の事を覚えていた。2年間ずっと単月契約だった。何かあったら翌月にはすぐ切れるというわけだ。


 サクライ・アキトが郵便局をおとずれる際はTシャツやパーカーなどラフな服装だったという。すぐに周辺の不動産をクラタにあたらせて聞き込みを行った。近くの賃貸物件を扱う不動産会社をウェブで調べると船橋や新宿の営業所が担当している物件もあり聞き込み範囲が広い。クラタに指示をして、写真と合わせて少し条件を絞る。直近2か月程度で動いた単身者用の物件を中心に聞き込みを続けると新小岩の店舗の担当者が該当する契約を担当したという。


 名前はコウガミ・サトル。日本橋堀留町の単身者用マンションを借りていて2か月前に解約している。大伝馬町郵便局の一本通りを渡った先のマンションだった。


 コウガミ・サトルの契約書を見せてもらう。勤務先はブートフォックスではなく、サクライ・アキトの経歴にあったものとも違った。保証人はコウガミ・カヨコ。55歳。コウガミの母親だろう。住所は岐阜県海津市となっている。すぐにクラタと岐阜に向った。


 新幹線で名古屋まで出てそこからローカル線で4時間ほどかけてコウガミの実家を訪れた。そこは3万人程度の地方都市の郊外で大きな川沿いにある小さな田舎町だった。コウガミの実家には母親のコウガミ・カヨコが住んでいた。父親は数年前に病死しており、コウガミ・サトルに兄弟はいない。カヨコは高校卒業以来ずっと近所のスーパーに務めていた。普段は市民センターのプールとランニングマシンで運動をして、趣味はカラオケだという。季節ごとにスーパーの同僚を中心とした仲間とカラオケ大会を開いてており、周囲に負けないように熱心に練習しているのだという。お茶と自家製の漬物を出してくれて、久しぶりに都会の若い人と話をしたと喜んでいた。人当たりのいいおしゃべりな人だった。


 カヨコは息子のサトルが高専を卒業した後、システム会社に勤めたことまでは知っていたが、それ以上はどんな仕事をしているのか知らない。正確には聞いても分からなかったのだという。息子はおとなしく、自分の事を話したり、相談したりするような子ではないといい、実家を出てからはあまり連絡を取っていなかった。


 私とクラタはコウガミが新卒で就職したシステム会社の上司ということにした。まだ令状が取れるような段階ではなかったし、急ぎでやむを得なかった。訪問理由は、コウガミが会社を辞めてしまったが優秀な人物だったので戻ってきてほしいということを伝えるためだ。なかなか連絡が付かないので実家を訪ねてきたのだ。


 カヨコの知っているコウガミの電話番号は不動産家役所の電話番号とは違うものだった。ちょっと息子に電話してみますねといい、カヨコが電話をかける。


 コウガミ・サトルが電話に出てカヨコが顛末を話す。クラタが電話を代わり、別の部屋に移動する。私もカヨコに頭を下げてクラタに続く。


「コウガミか。俺が分かるか?警視庁のクラタだ。意味が分かるか?」


 サトルは落ち着いた声で誰かわからないと答える。


「カネマツの件で聞きたいことがある。あれ、お前だろう。逃げられると思うなよ。」


 声のトーンを聞いたクラタがすぐに揺さぶりを仕掛ける。スピーカーモードにした電話口の先から小さく笑うような息遣いが聞こえる。カマをかけるにしてもあまりにノープランだったので私が嫌いな駆け引きだった。


「よくわからないですが、クラタさんのことは存じ上げません。実家まで来て頂いてお手数をおかけしてすみませんが、もうお電話を切らせて頂いてもよいでしょうか?」


「ほんとにそれでいいのか?母親も心配しているぞ。」


 クラタはディティールはなく、キーワードだけを強い口調を使い、コウガミを不安やイラ立ちの感情が立つように揺さぶろうとしている。


「すみません、ホントに何のことか分からないです。」


「じゃあ直接会って話をしよう。今どこにいる?」


 コウガミが黙る。


「通話を切るなよ、犯罪者。無駄な心配させて母親を泣かせるつもりか?」


 コウガミが少し間を開けて答える。


「分かりました。会いますよ。ほんとに警察の方ですか?どうして私が脅されないといけないんですか。」


ミウラ・ミカが人の気配を感じて振り返る。借りていた客間のふすまの先にカヨコの後姿が見えた。




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― 新着の感想 ―
おぉ、辿り着きましたね! 最近更新頻度が高くて嬉しいです。 今後も楽しみにしてます。
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