同僚
以前、私とクラタの二人でサクライ・アキトの同僚全員に聞き込みを行っている。もちろんその際にセキタからも話を聞いている。セキタから聞き出した話からは、めぼしい情報は出てこなかった。それは他の同僚も同じだ。全員口をそろえて言うことは、サクライ・アキトとプライベートな内容を話したことはないということだった。昼食を共にすることもあったようだが話題に上がるのは仕事に関することばかりだったという。
セキタは他の同僚に比べてサクライ・アキトとは仲が良かった。週に1度は一緒に昼食をとっていたということからもそれが分かる。だが、何度か飲みに誘ったこともあったと言うが、はぐらかされて実際に飲みに行ったことはなかった。そのセキタがサクライ・アキトのことで思い出したことがあるとクラタに連絡をよこしてきた。今日の夕方にセキタとアポを取っている。同席するので迎えに来るようクラタに返信し、ベッドに倒れ込んだ。
待ち合わせの16時の少し前に東池袋のカネマツ本社に着いた。1階に入っているカフェでセキタを待つ。セキタの経歴は見ている。工業高校を卒業後、精密機械の部品を作成する零細会社に入社。PCが趣味でプログラミングにも詳しかったこともあり、中小企業のシステム部に配属された。そこからセキタのエンジニアキャリアが始まった。時間丁度にセキタがカフェにあらわれた。49歳の中年体型のセキタは剥げかかった髪を長く伸ばして後ろで一つに結んでいる。私とクラタを見つけ、分厚い眼鏡の奥の目が細くなり、ニコニコとした人懐っこい笑顔を浮かべながら小走りで駆け寄ってくる。職業柄すぐに違和感に気が付く。ポーズだ。そういう仕草で自分を演じている。そこに悪意はない。そうすることが自分にとって有益だと知っている。誰もが持っている生きるための手段だ。他人を意識しない自分は当然他人に見せられたものではない。
セキタはコーラを注文して、天気や季節、それから東池袋の美味しい店など世間話を続け、本題に入らないでいた。肝心のサクライ・アキトに話が及びそうになると口が重くなる。
「これって話していいのかな。」
「やっぱり話しておいた方がいい事なんだろうけどね。それでも個人的なことだし、あまり自分から進んで話すのはちょっと。でも必要なことなんだとは思うんだよね。」
要するに謝礼を期待しているのだろう。同時にクラタもそれを感じ取り、事務的な説明を行った。1時間程度拘束することになった場合、2000円程度をセキタに支払うことを伝える。セキタの目が曇るのが分かった。
セキタは食べていいですかといい、クラタがうなずく前にパスタセットの大盛を注文した。注文した後に渋々と話し出す。
「まだ前回のシステム機器更改をやっている時だったから一年くらい前だったかな。」
落胆した様子を見せつけるようにうつむきながら、空になったコーラのグラスに残る氷をかき混ぜ続けている。ゆっくりともったいぶった話しぶりは私の癇に障った。
「浜松町から出ているモノレールあるでしょ?羽田空港に行くやつ。あれでデータセンターに行くんですよ。データセンターってわかります?システムを動かすためのコンピュータ、PCのでっかいやつを置いてあるところなんですけど。」
「流通センター駅ってところで降りると色んな物流会社の倉庫がいっぱいあるんですよ。倉庫って一つ一つの建物がでかいんですよね。それに道は広くて整備されていて、トラックばっかり走っている。全体の作りが大きいというか、日本の街の規格とはちょっと違う感じ。そこら中からピーピーとでかいトラックのバックする音や荷下ろしの音が鳴り響いてうるさいです。だから普通の家とかはほとんどないんですけど、倉庫で働く人のためにコンビニやレストランは結構あるんですよ。そういう街と言うか、区画ってデータセンターを作って運営するにもちょうどいいんですよね。三鷹、練馬あと都心なら渋谷や品川なんかにもデータセンターはありますけど古いし、もう普通の街にデータセンターは作れないでしょ。よくわからないでかい建物って近所の人も嫌がるし。だから狭いし、これから増床しても大してキャパが広がらない、利用の申し込みは全く通らないんですよ。だからうちのシステムも今後の事を考えて流通センターのデータセンターに引っ越ししたんですよね。」
「で、去年、システム部のメンバー何人かで流通センターのデータセンターに行ったんですよ。普段、現地作業はハードウェアベンダーに任せてるんですけど、新しいハードウェアを一式入れて、注文の品が実際に入っていることだったり、正しく接続されて動く状態になっているよねっていう検収をするために、カネマツ側として確認するために現地に行ったんですよね。」
「その日、サクライくんは元々はデータセンターに行く予定ではなかったんですけど、予定していたメンバーが風邪を拗らせて寝込んじゃって、それで急遽サクライくんに出張ってもらったんですよ。で、午前中の作業がひと段落してからみんなでお昼を食べようということになったんです。うちは普段はあまりみんなでお昼を食べることはないんですけどね。」
私はクラタを睨みつける。それを視界の端で捉えたクラタが話を挟む。すみません、今日、我々にお伝え頂けることってなんでしたっけと柔らかい口調でセキタに伝える。
「ああ、すみません、その昼食の時のことを思い出したんですよ。サクライくん普段は現金を持ち歩いていないみたいなんですけど、私たちが入ったレストランが現金しか使えなくて、で私にお金を貸してくれって言うんです。私お金の貸し借りできない人なので断ったんですよね。以前お金のことでトラブルになったことがあるので、そういうのわかりますよね。
「サクライくんって控えめっていうか、私以外の他の人とそれほどコミュニケーションとれてないっていうか、他の人にお金貸してって言いずらかったんでしょうね。それに少し頑固っていうか、一度断った私に、今、電子マネーで支払いをするから一緒に現金で払ってほしいというんです。面倒だなと思ったんですけど、了承してあげたんですよ。で、そういえばその時に私のSNSアドレスを教えて、そこに送金してもらったなと思い出したんですね。」
驚いて私とクラタは同時にお互いの目を見合わせた。サクライ・アキトの連絡先を誰も知らなかったはずだった。ブートフォックスに登録されていたメールアドレスは既に存在しないもので、携帯の連絡先は別人のものだった。ブートフォックスから携帯に連絡することは一度もなかったという。
セキタのスマホでサクライ・アキトのSNSアドレスを見せてもらう。表示名はA.Sakurai_0128。数字は誕生日か何かだろうか。少なくとも本物のサクライ・アキトの誕生日である3月11日とは異なる数字だ。A.Sakurai_0128とのやり取りの履歴が1つだけあった。それは決済アプリからセキタに支払がなされた通知だった。
一年前のログが残っているか微妙だが、SNSと決済アプリの契約情報だけでなく、利用している通信キャリアまで分かるかもしれない。通信キャリアから個別端末情報を追えれば普段利用しているアクセスポイントの自宅まで割り出せる。目じりと口元が緩んでいるのに気が付いた。表情を戻し、考えている間、落していた視線を戻すと私を見ていたセキタが目をそらした。




