嫌悪感の正体
ある日の夕方。図書館から帰ると、リビングにミカがいた。
「ただいま」
「おかえり」
ソファーに腰掛けたミカはこちらに目もくれない。どうやら珍しくテレビニュースを見ているようだった。
画面の中には、魔法少女に変身した星崎さんの姿があった。あの日以来、彼女たちを報道で目にしない日はない。
つくづく不思議だった。ぼくはテレビ越しの彼女たちを、魔法少女ではない個別の女の子たちとして認識できる。けれど他の人たちにとって、魔法少女は魔法少女以外の何物でもないのだ。魔法少女A、B……そんなふうに個を削ぎ落とした肩書きでしか知覚できない。
「お兄ちゃんさ」
「うん?」
「魔法少女って、どう思う」
のどの奥が冷たくなるような緊張感が走った。
「……どう思うって、なにが?」
「あたしは、この子たちちょっと嫌い」
ぼくは、自分がショックを受けているという事実に動揺した。それを表に出さないよう注意しながら、「どうして?」と尋ねると、ミカは「よくわかんないけど」と腕を組んでソファーの肘掛けに背中を預ける姿勢を取った。
「なんだか見覚えがあるっていうか」
はっとして息を呑む。まさか記憶操作のかかりが甘い? ぼくだけでなく、ミカとの間にも特別な繋がりがあったのだろうか。
そんな想像を働かせたところで、ミカが「あ、」と何かに気づいたように声を上げた。そうしてぼくをにらんでくる。
「なに?」
「……別に」
はああ、と大きなため息をつくミカ。話すつもりはないようだ。しばらくじとっとぼくをにらんだあと、不意に真顔になってテレビに顔を戻した。
「この人たちだって、自分を大事に思ってくれる人くらいいるんでしょ。家族とかさ。こんな危ないことして、そういう人たちがどう思うのか考えないのかな」
家族も含めてひとり残らず、彼女たちを大事に思ってた人たちはみんな彼女たちを忘れてしまったんだよ。
そのことは言えなかった。
「逃げちゃえばいいのに。ばかだよ」
ミカの憤りや苛立ちは、魔法少女そのものに向けられているわけではないのだろう。たぶんミカは、不安なのだ。自分と同じくらいの年頃の女の子が、誰かを護るために命を懸けている。その有り様を「勇敢だ」と称える人もいるし、「危ない」と心配する人もいる。ミカは後者だった。
「あたしは逃げるからね」
ミカは表情のない顔をぼくへ向けた。
「お兄ちゃんがシャドウに食べられそうになってても、見捨てて逃げるから」
「うん。それでいいよ。そのほうが嬉しい」
肯定したのに、ミカは片眉を上げて不服そうに口を尖らせた。
「ほんとだからね」
「わかってるよ」
「わかってないよ。お兄ちゃんもそうするんだからね」
ほとんど命令するような口調だった。
「あたしに何があっても自分のことだけ考えてればいいから。ちゃんと逃げなよ。お兄ちゃん、びびりなんだから」
ミカはぼくに釘を刺したかったのだろう。けれどぼくは、「それは難しいな」と苦笑いで返した。
「ぼくはミカを見捨てられない。わかるでしょ?」
ミカはあからさまに顔をしかめて、「そういうところが嫌なんだってば」とふてくされたように言った。




