戦果
星崎さんは有言実行の人だった。
「シャドウの動きが変わってきてる」
はじめに気がついたのは星崎さんだった。出現の頻度と場所にこれまでと違った傾向が現れているという。星崎さんは実例を示して伝えてくれたけれど、それは差というにはあまりにも微かな揺らぎに思えた。
魔法少女たちは星崎さんを信頼していた。カンナの言うことだ。間違いはないのだろう。しかしそれが何を意味するのかがわからない。
「つまり、どういうこと?」
「襲撃の指揮を取っている誰かが近くにいる」
ぼくは知らなかったけれど、どうやら本能のままに人を襲っているように見えるシャドウにも『社会』があるらしかった。「始祖」と呼ばれる個体が頂点にいて、その下に知性の高い上位シャドウ(魔法少女たちは「幹部」と呼んでいた)が何体か存在し、さらに下に有象無象のシャドウがいる。構造は単純。始祖の出す命令が絶対で、配下はその手足として動くだけ。魔法少女が日夜戦っているシャドウにまともな知性があるように見えないのは、実体をそのまま表しているだけなのだ。
自我のない無数の個体が、始祖という脳のもとにひとつの生命を形成している。群体としての個。そんなことをぼくは思った。
シャドウの見せた動きの背後には幹部の存在がある。今までと違う行動をするのは何か目的があるからに違いない。そこまで読めば普通なら、次はその目的を探ろうとするのだろう。
星崎さんは違った。
「考えても仕方ないよ」
考えるには材料が足りない、とも言った。そうかもしれない。だからといって、敵が見せている怪しい動きに頓着しないでいられる神経は豪胆と呼ぶほかない。
「意図なんてわからなくてもかまわない」と星崎さんは言い切った。
「現れたシャドウに何もさせなければいいだけ。そうすれば相手が何を考えていても関係なくなる」
できるのが当たり前かのように。それ以外の手段はないかのように。
「駒が使えなくなれば、幹部も出てこざるを得なくなるはず」
突拍子がないことでもあまりにも平然と言われると、対峙した相手は自分の常識を疑わずにはいられなくなる。それは同じ魔法少女という存在でも同様なようで、
「でも……具体的にどうするの?」
どこか怯えたように、その少女、二風谷ヒマリさんは尋ねた。中学一年生。最年少の魔法少女だった。
星崎さんの碧い瞳が燦然としている。
「結界に手を加えよう」
そうして、星崎さんは魔法が得意な二風谷さんと協力して、シャドウの侵入を感知する結界に、自動迎撃機能を組み込んだ。
言葉にすると単純に聞こえるけれど、決して人間に危害を加えないようにしつつ、結界を踏んだシャドウを消滅させるだけの打撃を加える自動機構を設計するのは、相当にピーキーな魔法操作を要する神業のごとき絶技だという。アルトが興奮して語るほどだから、よっぽどだろう。
策は当たった。シャドウは出現した瞬間に結界を踏んで蒸発する。手駒が何もできないことに業を煮やした敵幹部が、結界の破壊を試みるべく、自ら出向き姿を現したのは、夏休みが始まって三日目のことだった。
四人の魔法少女と幹部は激戦を繰り広げ、ついに相手を撃滅することに成功した。
その勝利は、妖精界がシャドウの侵攻を受けて以来はじめてと言っていい、明白で大きな戦果だった。




