ブリッツ王国VSプランチェ王国 2
「クソッ!あいつら、やっぱり裏切りやがったじゃねぇか!!」
画面越しには、ジョシュアがアレンに剣を突き付けられ、アダムズが得意気な顔でふんぞり返っている。
そんな様子を画面越しに見ながら、怒りにまかせて目の前にあった机を殴りつけるヒジリ。
「…このままじゃ、リネアが危ねぇ。早く行かねぇと!!」
怒りの形相で立ち上がったヒジリは一目散に扉の方へ走る。
部屋を出ようと、扉のノブに手をかけた瞬間…
『結局君は自分しか信じていないってことだよ。過去に何があったのかは知らないけど、いつまでもそんな調子では、いつか足元をすくわれるよ?』
不意に戦場に向かう前に囁かれたジョシュアの言葉が脳裏をよぎる。
(そういえば、これはジョシュアの言った通りの展開だ…)
『今回の戦い、恐らく君はルールを無視してでも乱入したくなる場面が出てくる。だけど、僕を信じて堪えてほしい。――少なくとも君自身の目で僕が死んだことを確認するまでは。』
(あいつはこうなることを分かってたのか?それともあいつがこうなるように裏で糸を引いてたのか?)
扉の前で立ったまま、ヒジリは葛藤する。
(確かに、まだあいつの死体は確認できていない…だが、ここでアイツの言葉を信じるんべきなのか?俺がここで待っている間にジョシュアに裏切られ、取り返しのつかないことになるんじゃないのか…?)
普段のヒジリならば迷わず飛び出していただろう。
しかし、なぜかあの時のジョシュアの真剣な眼差しがヒジリの脳裏に焼き付いて離れない。
(現に俺は今、アレンとクリスティーナに裏切られたばかりなんだぞ!その上、相手は常に何か企んでいるジョシュアだぞ!信じられるわけがない!!)
『ヒジリ君、君は確かに強い。だけど君一人では強国相手の代理戦争には勝てない。――どんな状況になっても仲間を信じられることも強さのうちだよ。』
「クソッ!」
ヒジリは握っていたドアノブから乱暴に手を離し、先程まで座っていたソファに座り直す。
「何が『信じられるのも強さのうち』だ!偉そうに言いやがって!!これで何かあったらただじゃおかねぇからな!!」
そう大きめな独り言をこぼしながら画面に視線を戻す。
ヒジリは食い入るように画面に意識を集中させる。
すると、かすかに声が聞こえた。
『爆発』
その直後…
ドカンッ!
大きな爆発音とともに画面は砂煙で見えなくなった。
しかし、その様子を見ていたヒジリは思わず笑みをこぼす。
「はっ、あのナンパ野郎、やってくれるじゃねぇかよ!」
※※※※
「なんじゃ、これは!?アレン、クリス!状況はどうなっておる!!」
大きな爆発音の後、辺り一帯は土煙で覆われ、全く視界が効かない。
「おい、ゴードン!どこじゃ!?誰でもいいから返事をせんか!!」
そんな中、一人の初老の男の必死な叫び声だけがあたりに響き渡る。
「もう誰もいないよ。アダムズ国王陛下。」
必死に叫び回るアダムズに一人の男が返答する。
「誰じゃ!?」
あたりを警戒しながらアダムズが再度問いかける。
やがて、土埃が晴れてうっすらと視界が開ける。
アダムズが目を凝らすと、前方に男の影が一つだけ。
アダムズの額に冷たい汗が流れる。
「誰って…君が想像してる通りじゃないかな?」
その影は軽薄な挑発的な口調で答える。
「貴様…!!」
土埃が完全に晴れ、男の影が鮮明になる。
その男は…
「そう、正解は僕。ジョシュア=フリークスでした!」
ジョシュアが不敵な笑顔を浮かべて立っていた。
そして…
「そんな…まさか…!?」
アダムズはその周囲を見て、驚愕の表情を浮かべて思わず後ずさりする。
ジョシュアの周囲には…アレンやクリスティーナ、ゴードンが…そして、自らの周囲にはプランチェ王国の一般兵士達が無惨に倒れていた。
その数、およそ100人程度…残っていたプランチェ王国兵のほぼ全てである。
「いやいや、本当はあんたも一緒に倒す予定だったんだけど…まさか兵士が自ら壁になるとは思わなかったよ。」
「そんな…」
「安心しなよ。みんな死なない程度には加減しておいたからさ。」
アダムズはあまりの出来事に腰を抜かす。
そしてジョシュアは軽薄な表情を浮かべながらゆっくりとアダムズに近づく。
「貴様…どうやって…?」
「どうやってって…あんたも見てただろ?――僕の魔法で爆発を起こしたんだよ。」
ジョシュアは当たり前のような顔で答える。
「ば、爆発だと…!?」
「そうそう。アレン君が剣を振り下ろす瞬間に僕の周囲で爆発を起こしたんだよ。」
「そ、そんなもの信じられるか!あの距離で爆発を起こしたら、術者とて無事では済まんはずじゃ!!なぜ貴様は平気で立っている!?」
アダムズは目の前にいるジョシュアに必死に叫び、問う。
「あぁ、そんなことか。そんなの爆発(エクスプロ―ジョン)を使う前に自分の体に熱量上昇の魔法をかけておけば済む話だよ。熱の壁に守られて僕は無事ってわけさ。」
ジョシュアはアダムズの問いに得意気に答える。
ジョシュアはアレンの攻撃を受ける瞬間に魔法を発動させ、他の兵士もろとも一網打尽にしたというわけである。
「さぁ、もういいかい?――今度こそ君の番だ。」
ジョシュアは怯えるアダムズに魔法でトドメを差すため、片手をかざす。
「こ、降参じゃあ!!い、命だけ…」
アダムズは恐怖のあまり、泣き叫びながら降参し命乞いをする。
『大将の降参により、ブリッツVSプランチェはブリッツ王国の勝利とする!!』
直後、ブリッツ勝利のアナウンスが流れ、それを聞いたブリッツ兵から歓声が響き渡る。
「ふ―、命拾いした見たいだね、アダムズさん。」
「へ?」
「僕らに喧嘩を売るなんて身の程知らずにも程があるんじゃない?――僕は君が降参しなかったら本気で殺すつもりだったんだよ?」
未だ腰を抜かしたままのアダムズにジョシュアが鋭く、冷たい視線を送る。
「す、すまん…じゃが、ワシらにはこうすることしか…それにまさか霧崎ヒジリ抜きのブリッツがここまで強いとは…」
「何?まだ喧嘩売ってんの?」
「い、いや…そういうわけではなくて…」
「やっぱり死んどく?」
そう言って、ジョシュアは精神的に瀕死のアダムズに鋭い殺気を放つ。
すると、アダムズは遂に泡を吹いて失神してしまった。
「ふー。これで二度と生意気な態度はとれないね。まぁ、プランチェ兄妹の裏切りを分かった上でブリッツ側に潜入させるように仕向けたり、ヒジリ君を今回の代理戦争から外すように助言したりしたのは僕なんだけどね。」
ジョシュアはそう一人で呟き、クスッと小さな笑いをこぼす。
そこに、近づく者が一人。
「よう。何一人でネタばらししてんだよ。」
「やぁ。どうやら僕のことを信じてくれたみたいだね。」
近づいていることに気付いていたのか、少しも驚くことなく振り返るジョシュア。
その振り返った先には、真剣な表情のヒジリが立っている。
「敵の大将を討ち取った僕を労いに来てくれた…わけじゃなさそうだね。」
「当たり前だろ。」
「リネアちゃんは大丈夫なのかい?自分の幼馴染に裏切られて傷心してるんじゃないのかい?」
「心配ねぇよ。リネアも薄々裏切られるんじゃないかって思ってたらしいからな。裏切られると分かってても、もう一回信じたかったみたいだな。――まぁそれなりに落ち込んではいたが…多分大丈夫だろ。」
「へぇ…さすが、伊達に何回も裏切られてはいないみたいだね。」
「おい、お前、喧嘩売ってんのか…?」
ヒジリが殺気のこもった目で睨みつける。
「ごめん、ごめん。ちょっとしたジョークだよ。――それで、君は何を聞きたいんだい?」
「お前、何を企んでやがる?」
「別に。僕はブリッツ王国のために動いてるだけだよ。――ただ、ブリッツ王国を世界一の国にするためにね。」
ヒジリの問いかけに、ジョシュアは軽い調子で答える。
しかし、口調とは裏腹に目は真剣そのもの。
二人の間に緊張が走る。
「は?どういう――」
「ヒジリさーん!ジョシュアさーん!!」
ヒジリが再度問いかけようと口を開くが、その言葉は一人の少女の声に遮られる。
「リネアか…」
「やれやれ、この話はまた改めてするとしよう。」
「お前、逃げる気か!?」
「別に逃げやしないよ。――まぁ、言いたいことを簡単にまとめると、君一人ではこれ以上ブリッツ王国は勝てないってことだよ。」
そう言って、ジョシュアはリネアの方へと歩きだす。
「おい、どういう意味だ!?」
「まぁ、詳しくは後でゆっくりはなすよ。」
ヒジリが再び説明を求めるも、ジョシュアは返答を先送りにして打ち切る。
「ヒジリさんも帰りますよー。」
リネアの呼ぶ声に、ヒジリも渋々納得して引き上げることにした。
そして、リネアの笑顔を見てヒジリは思う。
(まぁ、あの笑顔が見れるなら、たまには他人を信じるのも悪くねぇかもな…)
仲間を信じて得た勝利にどこか充実した表情を浮かべながら、ヒジリはリネアの下へと歩き出した。




