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信じられない…

「それじゃあ、作戦の最終確認だ。」


 プランチェ王国からの宣戦布告から数日後。

 いよいよ代理戦争を数時間後に控えたブリッツ王国陣営は、代理戦争部隊隊長であるヒジリを中心に最終打ち合わせを行っていた。


「まず、部隊を攻撃と守備に分ける。攻撃はジョシュアとセシル、防御はいつも通りダンのおっさんにやってもらう。」


 ヒジリの説明を皆黙って聞く。


「チームバランス上、ジョシュア達に一般兵を30人、ダンの方に60人つける。今回敵の数自体は大差ないが、魔導士の数は10倍程開きがある。特に守備の方は大変だろうがなんとか耐えてくれ。――守備が堪えている間に攻撃陣が大将を討ち取る。シンプルだが、今回はこの作戦で行こうと思う。――ここまでで質問はあるか?」


 一通り説明を終えて、ヒジリが他の主力メンバーに問いかけると、手を挙げる者が一人。


「すまない。…やはり僕ら二人は一緒に戦うことはできないだろうか…?」


 申し訳なさと寂しさが混在した複雑な表情を浮かべながら、アレンが尋ねる。

 その隣では妹のセシルも、表情は読み取りづらいがどこか悲しげな表情を浮かべてヒジリを見やる。

 本来はプランチェ王国の代理戦争代表の中核を担う存在である彼らであるが、今回は自分達が宣戦布告の原因の一端であることに責任を感じ、アダムズ国王の命令を無視し、ブリッツ側として参戦を志願している。

 しかし…


「ああ、すまんがそれはできん。――悪いが俺はお前らを信じられん。もしかしたらお前がグルになって仕組んでるってことも考えられるしな。」


 ヒジリは冷たい声色で切り捨てる。

 ヒジリはこの兄妹が今回の代理戦争を企てた可能性を否定できず、断固として彼らの参戦を反対している。


「ヒジリさん…どうしてもダメでしょうか…?」


 リネアが恐る恐るといった様子で再度確認するが、ヒジリの選択は変わらない。


「ちょっといいかい?」

「なんだ?」


 そんな中、今度はジョシュアが手を挙げる。


「どうして彼らの参戦を拒むんだい?」

「そりゃ、あいつらが裏切る可能性があるからだろ。」

「いやいや。僕が言ってるのはそういうことじゃないよ。さっき君がたてた作戦はシンプルだけど良い作戦だと思う。だけど駒が足りない。――要するに、このままだと恐らく僕達は負けるってことだよ。――それは君も分かってるんじゃない?」

「…確かにこちらの方が分が悪い。だが、プランチェ兄妹の裏切りがあったら俺達は瞬殺だ。俺が戦場に出られない以上――」

「そこだよ。恐らく君は自分が戦場に出られるのであれば彼らの参戦も許したはずだ。」

「…それは…」

「君は、自分がいれば別だが、僕達では彼らが裏切った時に対処できないと思っている。――つまり、結局君は自分しか信じていないってことだよ。過去に何があったのかは知らないけど、いつまでもそんな調子では、いつか足元をすくわれるよ?」


 他人を信じる――過去に様々な裏切りや手のひら返しを経験してきたヒジリにとってはこれほど難しいことはない。

 ヒジリにとって他人を信じるというのはリスクでしかなく、簡単に克服できるものではない。

 それが、数日前に会ったばかりで、客観的に見ても裏切りの危険性がある人物なら尚更である。


「そんなんじゃねぇよ!俺はただ客観的に見て――」

「確かに客観的に見たら君の言い分の方が正しいだろうね。」


 強がるヒジリの言葉をジョシュアは遮り、そこで一旦言葉を切る。


「だけどそれを踏まえて敢えて言わせてもらうよ。――例え問題が生じても僕達が何とかしてやる!だから、僕達を信じろ!!」


 ジョシュアは真剣な目でヒジリをまっすぐ見つめる。


「ヒジリさん、私からもお願いします!」


 リネアが頭を下げて再度頼みこむ。

他のメンバーも気持ちはリネアやジョシュアと一緒だと言わんばかりに、同じく真剣な眼差しをヒジリに向ける。


「…分かった。アレンとクリスティーナのメンバー入りを認める。」


 ヒジリは溜息交じりに遂に首を縦に振った。

 一同は互いに笑顔を見せあい、喜びを分かち合う。


「ヒジリさん、ありがとうございます!」

「別に、どの道お前の決定には逆らえんしな。」

「ふふっ、相変わらず素直じゃないですね。」


 照れくさそうにそっぽを向くヒジリに、リネアが悪戯っぽく笑う。


「ヒジリさん…私がこんなこと言っても不安でしょうけど…私、ヒジリさんの分まで頑張ります!だ、だから…ヒジリさんも、わ、私達を信じて、ま、待っていてください!」


 視線を合わせるのが恥ずかしいのか、リネアは頬を赤らめ、もじもじしながら、チラチラと表情を窺っている。


「まぁ、期待せずに待っててやるよ。」


 ヒジリは先程の仕返しと言わんばかりに、からかうような笑みを浮かべながら優しく答える。


「お二人さん、イチャイチャしてるところ悪いんだけど――」

「誰もイチャついてねぇよ!」


 そんな二人を茶化すようにジョシュアが割り込む。


「ごめん、ごめん。――それでさぁ、アレン君とクリスちゃんが入ったわけだけど、攻撃と守備の編成はどうするんだい?」


 ジョシュアの口からは意外とまともな質問が出てくる。


「ああ、もちろん、メンバーの構成も変更する。守備陣はダンとセシル。攻撃陣はジョシュア、アレン、クリスティーナの3人だ。」

「僕とこの二人に攻撃を任せるなんて、君も僕のことを信頼してくれてるんだね。」

「疑わしい奴をリネアから遠ざけただけの話だ。」

「相変わらず手厳しいな」


 ジョシュアが冗談交じりにヒジリをからかう。

 真面目なことを言ったと思えば次の瞬間には軽口を叩く…。やはりいつも通りのジョシュアである。

 ヒジリがジョシュアの相手を適当にしていると、今度はアレンとクリスティーナが近づいてきた。


「霧崎君、僕らの参戦を許してくれてありがとう。この恩は戦場で返すとするよ。」


 アレンは爽やかな笑顔で、手を差し出し、握手を求める。

 しかし、


「別に俺はあんたらを完全に信用したわけじゃねぇ。せいぜい恩をあだで返されないように用心しとくよ。」


 ヒジリは握手に応じることなく、その場を後にしようとする。

 それは照れ隠し等ではなく、ただ純粋な拒絶だった。


「それでも、僕らは君に感謝している。ありがとう。」


 アレンはそんなヒジリの後ろ姿に礼を言って見送る。


「僕からも一ついいかい?」

「なんだ?」


 そのまま去ろうとするヒジリをジョシュアが呼びとめる。


「ヒジリ君…今回の代理戦争、どうか僕を最後まで信じてほしい。」

「…なんだよ、急に?」


 普段とは違う、真面目な口調で、まっすぐ真剣な目をヒジリに向けるジョシュア。


「今回の戦い、恐らく君はルールを無視してでも乱入したくなる場面が出てくる。だけど、僕を信じて堪えてほしい。――少なくとも君自身の目で僕が死んだことを確認するまでは。」


 そう力強く訴えるジョシュア。

 しかし…


「俺に何を隠してる?」

「さすがヒジリ君。察しがいいね。――だけど今は言えない。事情は後から説明する。」

「こりゃお前の一層お前をマークしておかないとな。」


 ヒジリは、そう言い残すと部屋の出口に向かって再び歩き出す。


「ヒジリ君、君は確かに強い。だけど君一人では強国相手の代理戦争には勝てない。――どんな状況になっても仲間を信じられることも強さのうちだよ。」


 去り際、横を通り過ぎようとするヒジリにジョシュアが呟く。

 ヒジリは一瞬立ち止まったものの、何も言わずにそのまま歩きだす。


「そろそろ時間だ。――お前ら、俺の分まで頑張ってくれよ。」


 ヒジリは皆にそう言って、先に部屋を出る。

 そして、他のメンバーも黙って頷くと、ヒジリに続いて部屋を出ていく。

 ヒジリ不在というハンデを背負い、ブリッツ王国が出陣する。



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