プランチェ王国宣戦布告
「あ、アダムズおじ様…じょ、冗談ですよね…?」
アダムズの予想外の宣言に困惑する一同。
国の代表者であるリネアが動揺しながらもみんなの気持ちを代弁するかのように聞き返す。
「リネアちゃん、ワシが冗談でこんなことを言う男だと思うかね?」
「いえ…しかし、なぜ我が国に宣戦布告なんて…」
「そうです、父上!プランチェとブリッツは友好的な関係を築いてきたはずです!それがどうして…!!」
プランチェ王国の後継者であるアモスも信じられないと言わんばかりに訴える。
「理由は主に二つじゃ。一つ目は我が国の内紛を避けるためだ。」
「どういうことですか?」
「最近のブリッツ王国は代理戦争で立て続けに勝利して急速に領地を拡大している。通常なら数年に一度あるかどうかという代理戦争を数カ月で既に3回。この異常なまでの戦争の多さに、国民の多くは『このままブリッツ王国を放っておいたらプランチェよりも大国になってしまうかもしれない』『まだ相手の戦力が整っていないうちにこちらから倒しておくべきだ』という反ブリッツ派の意見を持っている。――アレン、クリスティーナ、お前達は分かっているな?」
「ぐっ…」
「なるほど。このまま戦争を起こさなければ、国民と王家の内乱になるかもしれない。それを回避するためにブリッツ王国に宣戦布告をしなければならなかったってことだね。」
ジョシュアの回答にアダムズは頷き、再び口を開く。
「そして二つ目の理由がアレン、クリスティーナ、お前達の裏切りだ。」
「!?」
「なっ!?」
「お前達の裏切りは既に国民中に広まっておる。さすがにこれは見過ごせない。そして、息子達を誑かして裏切りを仄めかしたブリッツ王国を許すわけにはいかんのじゃ!」
アダムズは真顔でリネアの目を見据える。
「ちょっと待ってください!僕らはプランチェを裏切ったわけではありません。少し手助けをしようと思っただけです!!」
「そうです!アッ君たちはあくまで一時的に私達に力を貸してくれるだけです!それに、私達は戦争で領地を広げようとアッ君に助けを求めたわけではありません!」
「私達、裏切ってない。」
「しかし、国民はそうとは思わない。例え、旧知の仲とはいえ、この国勢のなかブリッツ王国に手を貸すことは裏切りと同罪じゃ!」
「そんな…」
説得は不発に終わり、肩を落とすリネアとプランチェ兄妹。
そんな中、全く動じていない男が一人。
「まぁ、細かいことはどうでもいい。要は代理戦争でこいつらに勝てばいいんだろ?――おい、じじい。宣戦布告を撤回するなら今のうちだぞ?」
ヒジリは怒りを押し殺し、アダムズを睨みつける。
しかし…
「君が霧崎ヒジリ君じゃな?君のことはよく知っておる。前回の代理戦争での驚異的な戦闘力も含めての。」
「だったらどうした?」
「ワシだって馬鹿じゃない。あの戦争を観て、大抵のことでは君を倒せないこと位分かっておる。」
「じゃあどうして――」
「実はこのプランチェ王国にはアレンやクリスティーナと同等の上級魔導士が多くおっての。」
「あ?それがどうし――」
「彼らは今ブリッツ城を訪れておる。」
「「「!!!」」」」
一同はアダムズの言葉を一瞬で理解して驚愕の表情を浮かべる。
「おい、人質をとって脅迫するなんてことは代理戦争規約で禁止されてるはずだろ?」
「いや、ヒジリ君。彼らはあくまで『訪問している』だけなんだ。前回の誘拐とは違ってはっきりと人質をとっているわけではないんだよ。」
「くっ…」
興奮して詰め寄ろうとするヒジリをジョシュアが宥める。
「ワシからの要求は一つじゃ。次のプランチェ王国対ブリッツ王国の一戦において、霧崎ヒジリの参戦を禁ずる。」
「「「!!!」」」
「この要求が飲めなければ我々はそれ相応の対応をとる。」
つまり、アダムズはヒジリが代理戦争辞退しなければすぐに上級魔導士達にブリッツ城を襲わせると言っているのだ。
城には戦力となるのはダン=アルフォードしかおらず、彼一人で数人の上級魔導士を相手にするのは不可能と思って間違いない。
しかし、ほぼヒジリ一人で代理戦争を勝ってきたブリッツ王国にとってヒジリの辞退は死活問題でもある。
(プランチェって国がどれくらい強いかは分からんが城のデカさから言ってとても弱小国とは思えん。新しく入ったプランチェ兄妹は信用できねぇし、俺が抜けたら負けは確定だ。)
ヒジリは冷静に相手と自国の差を分析し、自然と表情を曇らせる。
「分かりました。私達はヒジリさん抜きで貴国との代理戦争を戦います」
「なっ!?」
ヒジリが頭を悩ませる中、リネアははっきりとそう告げる。
「お前、本気で言ってるのか!?俺がいなけりゃ――」
「それでも、私は城の人達を見捨てることはできません!!」
リネアはそう強く叫びながらも、目には涙を溜めている。
リネアにとっても苦渋の選択には違いなかったが、人一倍優しい彼女にとって一緒に働く城の人々を見殺しにすることはできなかった。
そして、その心中を察し、ヒジリも押し黙る。
「確かに今は受け入れるしか選択肢はないだろうね。――まぁ、僕達も力を貸すし、ヒジリ君抜きでもなんとか戦えるよ。」
ハーメルンの助力を得られたことで、ヒジリも少し安心するが、それでも厳しい戦況に変わりはない。
「それでは、交渉成立ということでいいかね?」
「はい…」
「それではワシはここで失礼させてもらうよ。おい、アレン、クリスティーナ、お客様達を送って差し上げろ。」
そう言い残し、アダムズは数人の家来を引き連れて部屋から出ていった。
そして、少しの間をおき、アレン達の案内の下リネア達も部屋から出た。
城門の前まで来たところで、今まで沈黙が続いていた中アレンが口を開いた。
「みんな、こんなことになってしまって本当にすまない……。」
「申し訳ない…」
「頭を上げてください。別にアッ君達が悪いわけではないじゃないですか!」
「いや、しかし……」
沈痛な面持ちで頭を下げるプランチェ兄妹をリネアが庇うが、二人は申し訳なさそうに謝り続ける。
そして、ヒジリは今回の原因ともなった二人をただ黙って鋭い視線を送るだけ。
「それならさ、アレン君にクリスティーナちゃん、君達も今回の代理戦争でブリッツ側で戦ってくれよ。」
「「「!?」」」
そんな重い空気のなか、ジョシュアの軽い調子の提案に一同が驚く。
「そんなに驚くことかい?僕達は戦力が必要で、アモス君達は国を追い出されて、ブリッツに負い目を感じている。これで全部解決じゃないかい?」
ジョシュアが他のメンバーの反応が不思議だと言わんばかりの表情で問いかける。
「おい、何呑気なこと言ってやがる。俺達はこいつらのせいで窮地に追い込まれてるんだぞ!それにこいつらが初めから俺達を騙すためにブリッツに近づいた可能性だって大いにある。」
「そうですわ!兄さん、あなたはお馬鹿なんですか?こんな信用ならない相手と一緒に戦うなんて自殺行為もいいところですわ!」
ヒジリとセシルが真っ向から反対する。
一方で、
「お、お二人はそんな人達ではありません!私はできれば二人にも一緒に参加してもらいたいのですが…」
「僕達も是非君達の力になりたい。もちろん全員が了承してくれればの話しだけどね。」
「私もブリッツの味方。」
真っ二つに分かれる意見。
そこにジョシュアが冷静な意見を出す。
「まぁ、意見が分かれるのは分かってたけどね。でも僕達には彼らを味方に引き入れることしか選択肢はないんだよ。」
「どういうことだ?」
「僕達と敵の戦力差を見ればわかるよ。敵はこの二人を除いても10人程度の上級魔導士と大量の兵士達。対するブリッツ王国は主戦力は僕とセシルとダン君。いくら僕達でもこれは厳しい。――つまり、僕達はリスクを負っても彼らを仲間に引き入れる必要があるってことだよ。」
あまりにも厳しい現実を突きつけられ、一同は再び沈黙に包まれる。
それでも納得できないヒジリは食い下がるが…
「そうは言っても――」
「ヒジリ君、君は確かに強い。それはもう想像を絶するほどにね。」
ジョシュアの言葉に遮られる。
「だけどこの先、もし前回のヴァッサーより強い国が現れた時、いくら強くても君一人では代理戦争に勝てない。――ヒジリ君、仲間を信じることも強さのうちだよ。」
真顔のジョシュアに何も言い返せないヒジリ。
『仲間を信じること』……今は少しずつ心を開きだしているヒジリだが、かつての世界で仲間や自分が助けた人々に散々裏切られてき彼にとって、数日前に初めて出会い、しかも騒動の原因である人物を信じることはそう簡単な問題ではなかった。
「ヒジリさん……」
すぐ隣ではリネアが複雑な表情を浮かべている。
アレン達と旧知の仲であるリネアにとっては彼は信頼に値する人物であり、ヒジリにも彼らを信じてもらいたい。
しかし、ヒジリの過去を知るリネアにとって、彼にそのことを強要させることはできないのだ。
「あー、分かったよ。だけど、少しでも怪しい動きをしやがったら、すぐに俺が始末するからな!」
「ワタシもヒジリ様がいいなら…」
そんなリネアの態度が決め手になり、渋々ながらヒジリとセシルも了承した。
「ありがとうございます!」
「ば、別に礼を言われる程じゃ…」
ぱぁっと表情を明るくして頭を下げるリネアに頭を掻きながら照れるヒジリ。
「ありがとう、ヒジリ君。これからよろしく頼むよ。」
「ありがとう」
お礼を言い、握手を求めるプランチェ兄妹。
しかし、ヒジリは
「別にお前らを完全に信用したわけじゃねぇよ。俺はただ、国王の意向に沿っただけだよ。」
そっぽを向いて握手を拒むと、一人で歩いていく。
「まぁまぁ、とりあえずなんとか戦力も整ったことだし、帰りながら作戦でも考えよう。」
「そ、そうですね…」
「う、うん」
こうして、ジョシュアの軽い調子の発言に助けられ、なんとも言えない雰囲気のなか、ブリッツ王国は自国よりも強大な国であるプランチェ王国、しかもヒジリなしという圧倒的不利な代理戦争に向けて歩きだした。




