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Jour de lenteur  作者: といか
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7/10

7.港

その年の秋、私は久しぶりに村へ帰った。

父の体調が悪くなったという知らせを受けたからである。

父は以前より痩せていた。

顔には深い皺が増え、歩く速度も遅くなっていた。それでも、朝になると港へ出て、船の様子を確かめる習慣は変わっていなかった。

「船はもう出さんのか」

私が尋ねると、父は首を横に振った。

「たまには出る」

「身体が悪いんだから、無理するなよ」

父は返事をしなかった。

その沈黙に、私は以前と同じものを感じた。

父は何も説明しない。

私が理解できないことを、理解させようともしない。


翌日、私は一人で港を歩いていた。

防波堤の近くに、一人の老人が座っていた。

老人は海を見ていた。

顔には深い皺があり、背中は少し曲がっていた。近くには古びた鞄が置いてあった。

私が近づくと、老人は私を見た。

「帰ってきたのか」

私は少し驚いた。

「私をご存じですか」

「昔、この辺りで見たことがある」

老人はそう言って、また海を見た。

彼はかつて村の学校で教師をしていたらしい。私も幼い頃、遠くから見かけた記憶があったが、名前までは覚えていなかった。


「海を見ているんですか」

私が尋ねると、老人は笑った。

「海を見る以外に、何がある」

「何か考え事でも?」

「考え事というほどのものではない。ただ、海があるなと思っている」

私は老人の隣に座った。

しばらく二人で海を眺めていた。


「あなたは、海が何だと思いますか」

私が尋ねると、老人は少しだけ眉を動かした。

「海は海だろう」

「それだけですか」

「それ以上、何が必要なんだ」

私は答えに困った。

老人は続けた。

「お前は、海が何であるかを知りたいのか」

「そうかもしれません」

「なぜだ」

「世界がどういうものなのか、知りたいんです」

老人は小さく笑った。

「人は、何でも知りたがるな」

「知らないままでいるのは、不安ですから」

「そうか」

老人は海に目を戻した。

「だが、海は、お前が見ていなくても海だろう。お前が名前をつけなくても、波は寄せる。お前が意味を与えなくても、潮は満ち引きする」

私は老人の言葉を聞いていた。

「だが、お前が見ていない海を、お前はどうやって知るんだ」

私は何も言えなかった。

老人は続けた。

「人間は、自分が知ることのできないものを、知っているように語る。知らないということを認めるのが、そんなに怖いのかね」

私は海を見た。

確かに、海はそこにあった。

しかし、それが私の見ている海と同じものなのか、私には分からなかった。


「あなたは、世界に意味があると思いますか」

老人はしばらく考えてから答えた。

「意味というのは、誰のためにあるんだ」

「人間のために、でしょうか」

「ならば、人間がいなくなれば意味もなくなるのだろう」

私は黙った。

老人は、足元の小石を拾い、海へ投げた。

小石は水面に小さな波紋を作り、すぐに消えた。

「だが、意味がなくなることと、何もなくなることは違う」

その言葉を聞いて、私は少し息を止めた。

「人間がいなくなったあとも、何かは残る。そう考えることはできる。だが、それを残ると呼んでいるのは誰だろうな」

私は老人を見た。

「あなたは、何もかも分からないと言いたいんですか」

老人は笑った。

「違う。分かることもある。だが、分かることがすべてだと思わない方がいい」

それから老人は、しばらく何も話さなかった。

私はその沈黙のなかで、父の言葉を思い出していた。

風は変えられん。

帆は調整できる。

父は世界を理解しようとはしなかった。

老人もまた、世界を説明しようとはしなかった。


ただ、海を見ていた。

私は初めて、世界を理解することと、世界のなかで生きることは、必ずしも同じではないのだと思った。

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