表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢 恋愛システムが破綻しました  作者: 南蛇井
第一章「設計された恋」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
9/36

第9話:王命干渉

朝。


王城の鐘が、いつもより低く響いた。


アルセリア邸に届けられた封書は、白地に王家の紋章。


封蝋は、赤。


最上位命令の印。


執事の手が、わずかに震える。


「……お嬢様」


レディアナは静かに受け取った。


封を切る。


中の紙は、簡潔だった。


《王命通達》


一、レディアナ=フォン=アルセリアを婚約候補より一時停止とする。

一、王城公式行事への出席を制限する。

一、アルセリア家の家格再審査を開始する。


理由:国家安定への影響精査。


静寂。


部屋の空気が重くなる。


家格再審査。


それは実質的な圧力。


名誉剥奪の前段階。


婚約候補停止。


社交界からの切り離し。


出席制限。


孤立。


すべてが、制度に則った処置。


強制ではない。


だが、逃げ道はない。


父が息を呑む。


「……これは、事実上の干渉だ」


レディアナは紙を丁寧に畳んだ。


表情は変わらない。


「ええ。正式な王命です」


声は穏やかだった。


だが、屋敷全体に緊張が走る。


王城・観測塔。


水晶盤が淡く光る。


「対象波形、変動なし」


「動揺反応、確認できず」


「……やはり」


記録官が眉をひそめる。


通常なら。


地位停止の通知で、強い感情揺らぎが起きる。


焦燥。


恐怖。


怒り。


しかし、波形は静止。


むしろ安定している。


王太子は塔の上階から報告を受ける。


「反応は」


「ありません」


「……ない?」


「はい。感情振幅、基準値内」


沈黙。


王太子の胸に、重いものが沈む。


命じたのは自分だ。


国家の名のもとに。


彼女を動かすために。


揺らすために。


だが。


揺れない。


書斎に戻る。


机の上に置かれた通達の控え。


自分の署名。


王太子は指先でなぞる。


これは正当な措置。


国家の安定を守るため。


不確定因子を排除するため。


それなのに。


胸の奥がざわつく。


アルセリア邸。


レディアナは庭に出る。


風が吹く。


白薔薇が揺れる。


昨日と何も変わらない景色。


「……婚約候補停止、ですか」


小さく呟く。


悲しみはない。


怒りもない。


ただ、理解。


制度が次の段階に入った。


彼女は空を見上げる。


「殿下は、選んだのですね」


それは責める声ではない。


確認。


王太子は、“権限”を選んだ。


自分の意志ではなく、制度の力を。


夕刻。


王城で公式発表が行われる。


“調整措置”。


“安定維持”。


言葉は柔らかい。


だが意味は明確。


社交界がざわめく。


「やはり問題があったのか」


「共鳴しない令嬢など危険だ」


噂は瞬く間に広がる。


観測塔。


「対象、外部評価低下」


「孤立率上昇」


「心理圧迫効果、発現予測」


だが。


波形は動かない。


王太子は夜、庭に立つ。


白薔薇の前。


あの日と同じ場所。


レディアナの言葉が蘇る。


“仕組みが言わせているのなら、私は応えられません”


彼は拳を握る。


なぜ揺れない。


なぜ怒らない。


なぜ泣かない。


なぜ――


自分を求めない。


その瞬間。


彼は気づきかける。


自分が欲しているのは、彼女の幸福ではない。


自分が“選ばれる”ことだ。


だが、その気づきはまだ曖昧。


彼は空を見上げる。


「……これで、終わるはずだ」


干渉は完了した。


婚約候補停止。


出席制限。


家格再審査。


制度としては十分な圧。


普通なら、屈する。


だが。


地下資料庫。


古い記録が静かに開かれる。


“干渉無効血統”


“制度以前の存在”


アルセリア家。


ページが風もないのに揺れる。


物語は、単なる排除へは進まない。


王命は発動した。


だが。


制度が触れた瞬間。


逆に明らかになる。


彼女は偶然ではない。


そして。


王太子の胸に残る違和感は、消えない。


干渉は成功したはずだった。


なのに。


揺らいでいるのは――


制度ではなく、


王太子自身だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ