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悪役令嬢 恋愛システムが破綻しました  作者: 南蛇井
第三章「選ぶ幸福」

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第25話:国家緊急会議

――安定値低下により制度強化案提出


観測塔。


夜明け前の空に、赤い数値が浮かぶ。


《国家安定値:57 → 55》


下降は緩慢。


だが、確実。


解析官が震える声で報告する。


「思想宣言以降、回復傾向なし」


「自律安定は維持されていますが、旧基準には戻りません」


管理官は水晶を見つめる。


円環は崩れ、代わりに揺らぎを含んだ波形が脈動している。


「揺れが常態化している」


「はい」


「これは“安定”とは呼べない」


沈黙。


「国家緊急会議を招集する」


——


王城・第一大会議室。


重臣、術式院、法務府、軍務総監、財務院。


全員の視線が中央の水晶へ向く。


法務長官が開会を宣言する。


「現在、国家安定値は警戒域に接近」


「思想宣言の影響と判断します」


水晶に波形解析が映る。


《象徴核:自律波形固定》

《外部誘導:拒否反応》

《干渉耐性因子:接触継続》


術式院長が低く言う。


「象徴核が完全に自律化へ傾いている」


「従来の誘導制御が効きません」


軍務総監が腕を組む。


「つまり、殿下は制度の外に立っている」


「象徴でありながら」


沈黙。


財務院代表が口を開く。


「市場心理は不安定化」


「貴族層も動揺」


「長期化すれば信用不安に発展」


法務長官が、静かに一枚の書類を置く。


「制度強化案を提出します」


水晶に新たな設計図が展開される。


——循環安定機構・再強化案——


第一条:象徴核への強制共鳴補助装置再接続

第二条:干渉無効血統との完全隔離

第三条:思想発信の統制委員会設置

第四条:安定値一定以下で自動介入発動


重い空気。


術式院長が補足する。


「これは拘束ではありません」


「国家維持の安全装置です」


軍務総監が言う。


「安定が第一」


「思想は二義的」


その瞬間。


扉が開く。


王太子が入室する。


静まり返る会議室。


「強化案、確認した」


声は落ち着いている。


だが、目は鋭い。


法務長官が言う。


「殿下、これは国家防衛です」


「思想の是非ではない」


王太子は水晶を見る。


赤い数値。


揺れる波形。


「確かに、安定値は低い」


「だが崩壊しているか?」


解析官が答える。


「いいえ。持続はしています」


「ならば」


王太子は円卓を見渡す。


「なぜ恐れる」


沈黙。


術式院長が言う。


「揺れは拡大します」


「制御不能の可能性」


「未知は危険です」


王太子は静かに言う。


「未知だから危険だと?」


「はい」


「では、進歩は常に危険だ」


水晶がわずかに明滅する。


安定値、54。


わずかに下がる。


緊張が走る。


法務長官が声を強める。


「殿下。国家は実験場ではありません」


「象徴の内面一つで揺らぐ構造は、危うい」


王太子は一歩前へ出る。


「だからこそ問う」


「象徴を装置に戻せば、永遠に安定するのか」


誰も答えない。


王太子は続ける。


「設計された恋は、崩れた」


「だが国家は崩壊していない」


「揺れを含んだまま、立っている」


水晶の波形が、強く脈打つ。


不規則。


だが持続。


「強化案は、恐怖の産物だ」


「私は恐怖で統治しない」


軍務総監が低く言う。


「では不安を放置するのか」


「違う」


王太子の声は静かだが、確固としている。


「揺れを前提とした制度へ移行する」


ざわめき。


「安定の定義を変える」


法務長官が険しく言う。


「理想論です」


「思想です」


王太子は頷く。


「そうだ。思想だ」


「制度強化か」


「制度進化か」


観測塔。


安定値、54で停止。


下降が止まる。


解析官が呟く。


「象徴核、決断固定」


大会議室。


強化案は可決寸前で止まる。


円卓は割れている。


国家は揺れている。


だが。


まだ崩れていない。


制度は守りに入るか。


それとも、思想を受け入れるか。


国家緊急会議は、結論を出せぬまま散会する。


水晶は静かに脈打つ。


揺れを抱えたまま。


戦いは、制度の内部へと移った。

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