第24話:思想の宣言
――「私は、選びます」
第二章・最終話
王城・大広間。
臨時評議会。
重厚な柱の間に、王族、重臣、術官、貴族代表が並ぶ。
中央に立つのは、王太子。
その背後で、水晶円環が淡く揺れている。
議題は一つ。
《アルセリア家正式排除承認》
法務長官が読み上げる。
「国家循環安定機構維持のため――」
「待て」
王太子の声が、静かに遮る。
ざわめき。
管理官が視線を向ける。
「殿下、これは制度上――」
「制度の話をしよう」
王太子は一歩前へ出る。
その動きに、水晶が共鳴しかける。
だが、今回は違う。
波は自発的。
「私は、象徴だ」
「国家安定の核」
「設計された存在」
誰も否定しない。
「だが、私は人間でもある」
ざわめきが広がる。
法務長官が眉をひそめる。
「象徴の私情は、国家に優先しません」
「私情ではない」
王太子の声は、落ち着いている。
「思想だ」
静寂。
レディアナは傍聴席に立っている。
排除対象でありながら、最後の弁明機会として招集された。
彼女は黙って見ている。
王太子が続ける。
「これまで我々は、安定を善と定義してきた」
「揺らぎは排除」
「例外は削除」
視線が、円卓の重臣たちを巡る。
「だが、それは完成か」
誰も答えない。
王太子は言う。
「私の恋は設計だった」
広間が凍りつく。
聖女が息を呑む。
「感情は誘導」
「共鳴は機構」
「運命は条件」
重臣の一人が立ち上がる。
「殿下、それは国家機密――」
「ならば問う」
王太子の声が、広間を震わせる。
「設計された安定は、永遠か」
水晶が揺れる。
不規則な波。
だが崩れない。
「私は崩れた」
「だが国家は崩壊していない」
解析官が息を呑む。
数値は確かに、不安定だが持続している。
王太子の視線が、レディアナへ向く。
「彼女は共鳴しない」
「誘導もされない」
「だから排除する?」
沈黙。
管理官が静かに言う。
「彼女は制度外です」
「そうだ」
王太子は頷く。
「制度外だ」
そして。
「だから必要だ」
広間がどよめく。
「制度が誤れば、誰が止める」
「象徴が暴走すれば、誰が抑える」
レディアナの瞳が、わずかに揺れる。
王太子は言う。
「例外は、欠陥ではない」
「限界を示す存在だ」
法務長官が低く言う。
「理想論です」
「違う」
王太子は、深く息を吸う。
そして。
宣言する。
「私は、選びます」
水晶が強く光る。
「設計ではなく」
「誘導ではなく」
「安定の自動運転でもなく」
一拍。
「自分の意思で」
静寂。
国家安定値が一瞬、急降下する。
だが。
次の瞬間。
新しい波形が形成される。
不規則だが、持続的。
解析官が震える声で言う。
「自律安定……?」
管理官が息を呑む。
「思想による維持……」
王太子は続ける。
「レディアナの排除を、私は認めない」
「彼女は不確定因子ではない」
「私の選択肢だ」
広間に衝撃が走る。
それは恋の宣言ではない。
依存でもない。
思想。
制度の定義変更。
レディアナが初めて口を開く。
「殿下」
その声は静かだ。
「私は、守られる存在ではありません」
王太子は頷く。
「知っている」
「だから選ぶ」
「守るのではなく」
「共に在ることを」
水晶が、穏やかに脈打つ。
設計された円環ではない。
揺れを内包した、新しい形。
法務長官が低く言う。
「制度は変わりません」
王太子は答える。
「ならば、私が変える」
その言葉は、反逆ではない。
宣言だ。
安定対排除の対立は、終わった。
次に始まるのは。
思想対思想。
制度の絶対性か。
選択の尊重か。
観測塔。
国家安定値。
低位だが、持続。
崩壊はしない。
第二章、終幕。
排除か、従属かの時代は終わる。
王太子は選んだ。
「私は、選びます」
その一言が。
国家の構造を、静かに揺らし始めていた。




