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悪役令嬢 恋愛システムが破綻しました  作者: 南蛇井
第二章「国家の設計図」

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第22話:設計外の感情

――レディアナへの違和感=初の自我


夜明け前の王城。


観測塔の水晶は、ひび割れたまま静かに脈打っている。


国家安定値――不安定域、維持。


崩壊はしていない。


だが、従来の波形ではない。


管理官が低く呟く。


「象徴核、再構成中……?」


解析官が首を振る。


「いえ。これは補正ではありません」


水晶に映る新しい波。


従来の滑らかな円環ではなく、不規則な振動。


だが。


自発的。


「外部誘導、検出されず」


「自律波形……」


静かなざわめきが広がる。


王城回廊。


王太子は、夜を越えて歩いていた。


設計された恋は崩れた。


胸の奥は、空白。


だが不思議と、恐怖はない。


代わりにあるのは、微かな違和感。


思い出すのは、あの瞳。


レディアナ。


共鳴しない存在。


自分の感情を問い返した声。


あのとき感じた、ざらつき。


心が掴まれたような、不安定な揺れ。


あれは甘さではなかった。


安定でもなかった。


だが確かに、強かった。


「……あれは何だ」


庭園。


朝霧の中、レディアナが立っている。


偶然ではない。


彼女は振り返る。


「殿下」


声音はいつも通り。


揺れない。


王太子は彼女を見つめる。


胸が高鳴らない。


共鳴もしない。


だが。


視線を逸らせない。


「あなたに会うと、落ち着かない」


率直な言葉。


レディアナがわずかに目を細める。


「それは、不快ですか?」


「……違う」


王太子は息を吐く。


「安心もしない」


「では?」


沈黙。


自分の内側を探る。


設計図はない。


数式もない。


あるのは、生の感覚。


「考えさせられる」


レディアナの瞳が静かに揺れる。


「それは、良いことですか」


「わからない」


王太子は正直に答える。


「だが、初めてだ」


観測塔。


「対象接触中」


「共鳴誘導なし」


「安定値、微増……?」


解析官が息を呑む。


「設計外の上昇です」


庭園。


風が吹く。


レディアナの髪が揺れる。


王太子は、その揺れを目で追う。


共鳴はない。


だが、感情が動く。


微細なざわめき。


「あなたは、私に合わせない」


「はい」


「私を、象徴として扱わない」


「はい」


即答。


王太子は小さく笑う。


「それが、こんなにも不安定だとは思わなかった」


レディアナは静かに言う。


「不安定は、悪ですか」


問い。


かつてなら即答できた。


安定こそ善。


だが今は。


「……違うかもしれない」


その瞬間。


胸の奥で、何かが噛み合う。


甘さではない。


依存でもない。


選ばされた衝動でもない。


ただ。


自分の内側から生まれる、小さな肯定。


「あなたを見ると、私は選びたくなる」


レディアナの呼吸が止まる。


「何を」


「自分の言葉を」


静寂。


風が止む。


王太子は続ける。


「それは設計にない」


「ええ」


「だから怖い」


正直な告白。


だが逃げない。


「だが、初めて、私の感情だと思える」


観測塔。


水晶が静かに光を変える。


円環ではない。


揺れを含んだ、新しい波形。


「自律共鳴……」


管理官が呟く。


「いや、共鳴ではない」


「自己発生感情波」


庭園。


レディアナはゆっくりと答える。


「それが殿下の感情なら」


彼女は微かに微笑む。


「私は否定しません」


肯定でも、誘導でもない。


ただ、存在する。


王太子の胸がわずかに熱を持つ。


共鳴ではない。


依存でもない。


だが確かに。


自分が生んだ感情。


「……違和感の正体が、やっとわかった」


「何ですか」


「自我だ」


その言葉は、静かに空へ溶ける。


観測塔の数値が変わる。


国家安定値。


不規則だが、下降していない。


設計外の感情。


レディアナへの違和感。


それは、誤差ではなかった。


初めて芽生えた、王子の自我。


装置の外で生まれた波。


物語は、新しい位相へ進む。


設計された恋は終わった。


だが今。


設計外の感情が、確かに動き始めている。

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