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悪役令嬢 恋愛システムが破綻しました  作者: 南蛇井
第二章「国家の設計図」

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第17話:数値解析

――レディアナ=誘導耐性


観測塔。


巨大な水晶円環の内部で、淡い光が規則的に脈打っている。


しかしその波形は、昨夜から乱れていた。


「国家安定値、平均値より三・二低下」


「共鳴核の位相、未補正」


術式盤に並ぶ数値が、赤く滲む。


管理官は低く告げる。


「原因は明白だ。王太子の自我覚醒傾向」


一人の解析官が、震える声で補足する。


「ですが……もう一つ、異常があります」


円環の中心に、別の波形が浮かび上がる。


淡い青。


一定。


揺れない。


「対象:レディアナ・ヴァルシュタイン」


空気が変わる。


「共鳴干渉値、極小」


「誘導成功率、ゼロ近傍」


「感情波形――外部同調なし」


沈黙。


管理官が眉をひそめる。


「あり得ない。聖女でさえ、初期段階では微細共鳴が観測された」


解析官は首を振る。


「彼女は違います。共鳴場に入れても、波形が変わらない」


映像記録が再生される。


王立庭園。


祝賀夜会。


王太子の視線。


通常なら、象徴存在の視線は周囲の感情波形を緩やかに引き寄せる。


だが。


レディアナの波形は、直線。


まるで、干渉を拒む壁。


「仮説」


解析官が深呼吸する。


「彼女は、誘導耐性を持っています」


「……誘導耐性?」


「はい。感情共鳴場において、外部からの位相同期を受け付けない特性」


水晶が、微細に震える。


管理官の声が硬くなる。


「それは装置にとって、何を意味する」


解析官は静かに答える。


「――不確定因子です」


地下書庫。


レディアナは、封印書の頁をめくっている。


隣でティアナが呟く。


「ねえ、あなたって本当に揺れないのね」


「何が?」


「共鳴。普通は、少しくらい波打つのに」


レディアナは首を傾げる。


「揺れる必要があるの?」


ティアナは言葉に詰まる。


必要。


それは、この国では前提だった。


恋は共鳴。


共鳴は安定。


安定は善。


だが彼女は、その輪の外にいる。


レディアナは静かに言う。


「誰かに合わせるための感情なら、それは私のものじゃない」


その言葉は、理論書のどこにも存在しない定義だった。


観測塔。


「追加報告」


別の解析官が叫ぶ。


「王太子とレディアナ接触時、共鳴核の波形が増幅」


「しかし同期せず」


「増幅して……ずれる?」


「はい。通常は同期→安定化。しかし今回は――」


水晶に映る二つの波。


王太子の波形は拡張する。


だが。


レディアナは変わらない。


結果。


重ならない。


増幅だけが起き、閉じない。


循環しない。


管理官の声が低く落ちる。


「象徴核が、彼女に引き寄せられている」


「しかし彼女は、応答しない」


沈黙。


「最悪だな」


誘導耐性。


それは単なる非共鳴ではない。


共鳴場に“影響されない”存在。


制度の外側。


装置の計算式に入らない値。


王太子の私室。


彼は自らの波形記録を見つめていた。


「……彼女の数値を見せろ」


提出された解析紙。


王太子の目が止まる。


《対象:レディアナ》


《共鳴誘導成功率:0.02%以下》


《感情同期:観測不能》


《外部干渉耐性:極高》


彼は小さく笑う。


「観測不能、か」


聖女との共鳴は、美しかった。


完成された旋律。


だが。


レディアナは違う。


旋律にならない。


だが確かに、そこにある。


彼は呟く。


「彼女は、誰にも書き換えられない」


その瞬間、わずかに波形が跳ねる。


観測塔。


「共鳴核、再振動!」


「原因は?」


「不明――いや」


解析官が震える声で言う。


「王太子の自発的選択傾向、増大」


管理官は静かに理解する。


誘導耐性。


それは、単なる防御ではない。


他者に選択を強いる存在。


レディアナは、王太子を揺らす。


共鳴でなく。


問いで。


夜。


地下書庫。


ティアナが小さく笑う。


「あなた、国の装置を壊すかもね」


レディアナは本を閉じる。


「壊す気はないわ」


静かな声。


「ただ、自分で立っているだけ」


その言葉が、何より危険だった。


観測塔の水晶が、再び波打つ。


国家安定値。


緩やかに下降。


数式に入らない存在。


誘導できない波形。


レディアナ=誘導耐性。


それは。


制度にとっての誤差。


王子にとっての自由。


そして。


物語にとっての、決定的変数だった。

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