第18話:排除候補
――国家評価:不確定因子
観測塔・上層会議室。
円卓の中央に浮かぶ水晶投影。
そこに表示される一行。
《対象:レディアナ・ヴァルシュタイン》
《国家評価:不確定因子》
室内の空気は重い。
管理官が淡々と告げる。
「安定値低下との相関、明確」
別の術官が補足する。
「王太子接触時、共鳴核振幅増大。しかし同期不能。循環未成立」
「結果?」
「国家安定機構、制御不能域へ接近」
沈黙。
円卓の一角、法務長官が静かに言う。
「排除基準第七条に該当」
術式盤に条文が浮かぶ。
《国家循環機構に重大な影響を与える存在は、調整または隔離を行う》
「調整不可の場合は?」
「――排除」
その言葉は、あまりに静かだった。
だが重い。
王城・私室。
王太子は呼び出される。
机上に置かれた報告書。
彼の視線が止まる。
《評価:不確定因子》
《処置提案:接触制限/社交圏縮小/必要時隔離》
「……隔離?」
管理官は目を伏せる。
「国家のためです」
王太子の指先がわずかに震える。
「彼女は何もしていない」
「それが問題なのです」
「……何?」
「何もしていないのに、影響を与える」
静寂。
「誘導耐性は、装置の外側にある力です」
管理官の声は理論的で、冷たい。
「制御できない力は、国家にとって脅威」
王太子は報告書を閉じる。
胸の奥に、熱が生まれる。
「彼女は“力”ではない」
「では何です」
問い。
かつてなら即答できた。
象徴。
核。
役割。
だが今は。
「……一人の人間だ」
その瞬間。
観測塔の水晶が強く揺れる。
「共鳴核、位相ずれ拡大!」
「自我傾向増大!」
管理官の目が細まる。
「殿下。あなたが揺れれば、国家が揺れる」
地下書庫。
レディアナは本を整理していた。
ティアナが急ぎ足で駆け込む。
「あなた、上で何か決まったみたいよ」
「何が?」
「あなた、排除候補」
静かな言葉。
だが空気が凍る。
レディアナはしばらく沈黙する。
「……そう」
驚きはない。
恐怖も、少ない。
ただ理解がある。
制度は、揺らぎを許さない。
彼女は揺れない。
だから排除。
ティアナが怒りを滲ませる。
「おかしいでしょ! 共鳴しないだけで」
レディアナは小さく首を振る。
「共鳴しないから、よ」
彼女は窓の外を見る。
夜の王都。
灯りが規則正しく並ぶ。
整然。
安定。
設計された安心。
「私は、合わせない」
その言葉は穏やかだ。
だが強い。
「合わせない存在は、邪魔なの」
観測塔。
最終判断会議。
「隔離を提案します」
「王太子との接触を完全制限」
「婚約候補資格、停止」
「社交界出席、凍結」
水晶に赤い印が灯る。
《処置準備:承認待ち》
そのとき。
扉が開く。
王太子が入室する。
空気が張り詰める。
彼は円卓を見渡す。
そして、はっきりと言う。
「処置は認めない」
「殿下」
「彼女は国家を壊していない」
管理官は冷静に返す。
「壊す可能性がある」
「可能性で、人を排除するのか」
静寂。
円卓の光がわずかに揺れる。
管理官が低く告げる。
「殿下。あなたは象徴です」
「象徴が個情に傾けば、循環は崩れる」
王太子の瞳が静かに燃える。
「ならば問う」
一歩、前へ。
「象徴は、人であってはならないのか」
その問いは、数式に存在しない。
観測塔の水晶が、激しく波打つ。
「安定値、急降下!」
「共鳴核、不整合拡大!」
だが。
王太子は退かない。
「彼女を排除するなら、私もまた誤差だ」
円卓に、沈黙が落ちる。
地下書庫。
レディアナは静かに本を閉じる。
「決まったの?」
ティアナが問う。
遠くで警鐘が鳴る。
レディアナは微かに微笑む。
「まだ」
彼女は立ち上がる。
「でも、選ばれるだけの存在ではないわ」
夜の王都。
国家安定値。
緩やかに下降。
制度は計算する。
象徴の揺らぎ。
誘導耐性。
排除候補。
レディアナ=不確定因子。
だが。
不確定とは。
可能性でもある。
排除か。
変革か。
装置は揺れ始めていた。




