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長命エルフの小さなカフェ〜今日はなに飲む?〜  作者: 藤 野乃


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アーイシャ妃



 今日は朝から急遽貸し切りになった。

 目の前には王宮で働いている常連の若い女の子、サシャがいるが──何故かお仕着せのままだ。

 顔色の悪いサシャの横には豪華絢爛な衣装をまとった幼い女の子。

 その子を挟むように、この国の宰相シグマが渋い顔で腰掛けている。


「…………いったいどういう事情?」


「申し訳ございません、聞かれるままこのお店の話をしてしまい……」

 

 サシャが再び深々と頭を下げた。

  

「待って待って、店は別に会員制でもないし、話したっていいけどこの女の子は……」


 シグマが憂いを帯びた顔で口を開いた。


「この方は……ルルブ陛下の正妃、アーイシャ妃です」


 ルルブ陛下。

 まだ四歳の国王陛下である。

 兄弟は数十人いるが、前正妃唯一の嫡子なので先王崩御のあと即位したのだ。

 実際の政治の舵取りはルルブ陛下の後見人であるシグマの父上だと以前聞いたことがある。

 ちなみに前正妃……皇太后はシグマの姉であるので、後見人はルルブ陛下の祖父でもある。


(アーイシャ妃殿下? 後宮から出したら非常にまずいのでは……?)


 この澄ました顔のアーイシャ妃は、確か八歳だったはず。

 そして、一生後宮から出られないはずなのだが?


「私がカフェの話をしたばかりに、妃殿下が抜け出してしまいまして」


「幸い、すぐに見つけられたのですが、この通りカフェに行くまでお帰りにならないと申されまして」


「あらまあ」


「妾はアーイシャである」


「ジューンよ」


 アーイシャ妃は好奇心に満ちた顔で、店内を見回している。

 なるほど、宰相もサシャも首が飛びかねない事態なのね。


「いいわ、こうしましょう。アーイシャ妃殿下はここでお好きなものを頼む。そして三人とも、私が転移で王宮に送る」


「そう言ってくれると思って、アーイシャ妃殿下をお連れしました。歩いて戻るにも街中は目立ちすぎる」


 シグマはそう言って頭を下げた。


「いいわ。ここでは妃殿下ではなく、ただのアーイシャで過ごすといい。ただし、今回だけ……脱走してきてここに来ても、入れないからそこだけは覚えておいて」


 アーイシャ妃殿下は鷹揚に頷き、サシャの差し出すメニュー表に視線を落とした。


「妃殿下はルルブ陛下がお生まれになってすぐ、後宮に入られましたので……外の世界を見たくなったのでしょう」


「妾、エルフも見てみたかったのでな」


 (カフェとエルフが気になっていたのか……)


「まあ、光栄です」


「エルフは皆そなたのように色が白いのか。まるで月桃香花のようだ」


 この国の人々の肌は浅黒く、髪も瞳も黒いものが多い。

 アーイシャ妃殿下も幼いながら、エキゾチックな美女になる片鱗を見せている。


「そうね、エルフ肌は白い。でもあなたの肌の色も素敵よ。キラキラした瞳と合わせると、宝石のファイアーアゲートみたいで」


「それは妾の好きな石だ。気に入った」


 そう言って妃殿下はミルクたっぷりの甘いたんぽぽコーヒーを所望した。

 サシャはいつもは果物たっぷりのスムージーを頼むが、今日はミントティー。

 シグマは砂糖なしのたんぽぽコーヒーを注文した。

 妃殿下は目の前で行われている作業に夢中だ。

 口数こそ少ないが、瞳が好奇心で輝いている。


 (まあ、身も蓋もない言い方をしたら興奮で瞳孔が開いてるだけなんだけど……)


 たんぽぽコーヒーに砂糖とミルクをたっぷり入れて、保温魔法陣が刻まれた持ちやすいカップでカウンターに出したが……妃殿下は手を出さない。

 サシャが鑑定魔法をかけ、更に清潔な匙で飲み物をすくい、口に入れる。

 そのまま数分。

 毒はその場ですぐ効くものばかりではないから、数分待つのがいつものやり方なのだろう。

 ようやく口をつけた妃殿下は、初めて笑顔を見せた。


「温かい」

 

「でしょうな。陛下と妃殿下の飲食物は毒味に時間がかかりますから」


 シグマが居心地悪そうに呟いた。

 まだ幼く身体が小さな陛下と妃殿下なので、周囲は特に毒に敏感なのだろう。

 平民のサシャが王妃付きなのはおそらく鑑定魔法持ちだからだ。


「気に入ったなら、カップは持って帰ってもいいわよ」

 

「いただいていこう」


 カウンターの三人は静かに注文したものを飲み、シグマが立ち上がった。

 妃殿下は小さなため息をつき、サシャが床に下ろすために伸ばした手に掴まった。

 私はカップを洗い、可愛い紙袋に入れてサシャに渡した。


「じゃ、転移するわね」


 私はわざわざ足元に魔法陣を展開する必要はないけれど、魔法陣は仄かに光って綺麗なので妃殿下へのサービスで出現させた。

 何も言わなかったが瞳が丸くなったので、きっと気に入ったんじゃないかな。



 

 

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これは出前フラグ…
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