女の子たち②
美女三人は、夜に辛いものを食べに行くことにしたようだ。
「お店は休みなの?」
「うん、何ヶ月かに一回お店自体が休みになる日があるの。今日は床材の交換とかするみたい」
「安くて美味しい店があるんだけど……」
「へえ、どこどこー」
「個室がないの」
「あー、じゃあダメ」
「なんで?」
「だってお客さんに会っちゃうかもしれないでしょ、休みなのに相手するの嫌じゃないの。お金にもならないのに」
ユーナの問いにサランがあっけらかんと答えた。
「個室じゃないと面倒なのよ。娼婦のくせに贅沢しやがってって言ってくる人もいるけどね」
「えー」
「いいお客さんばかりじゃないから。ユーナは新人だから、いいお客さんしか割り当てられてないのよ」
「そうなんだ……」
「だから、ちょっと割高でも客に会いたくない時は個室があるところがいいのよ。もちろん、わざと声かけられるのを待って、そのまま一緒に店につれていく女の子もいるけど」
「あ、それいいな。お客さん少ない週はやってみようかな」
「いいんじゃない? 今月が終わればもう新人扱いはなくなるし、寮も出されるでしょ」
「もう来月から借りれそうな物件は決めてあるの」
「それは良かったわね」
三人はまたメニューを眺め始めた。
スムージーはほぼ水分だし、ハーブティーもそうだ。
タルト一個では物足りなかったのかもしれない。
「パウンドケーキが気になる」
「私、コケットのサンドイッチがいい」
カウンターを一度リセットし、注文の品を新たに並べると三人は歓声を上げてフォークを手に取った。
「美味しい。あ、そう言えばメラルダの話聞いた?」
「誰ですか、聞いたことがない名前……」
ユーナがレリアに向かって首を傾げた。
「あれ、ユーナが来る前に辞めたんだったっけ」
「そうじゃない? 前に一緒に働いてた女の子なんだけど、店じゃないほうがもっと稼げるって言って」
「個人でってこと?」
「そう。辞めたあとは、街角でお客さん引いてた」
「へえ……」
「可愛い子だったわよ。そのまま店にいれば、あんなことにはならなかったのに」
「何があったの」
「ほら、この前スラムの入り口付近で娼婦らしき人が殺されたでしょ」
美女たちは声を潜め、笑顔を引っ込めた。
「ああ、ありましたねえ」
「その殺された人がメラルダよ」
「ああ、だからお店に警邏隊の人が来てたのかぁ」
(殺されたのは勝手に年配の娼婦ってイメージ持ってたけど、そうじゃないのね……)
「客引きをした結果なのか、追い剥ぎにあったのかは知らないけど。お店の方が絶対安全よ。帰りだって店の男の人が家まで送ってくれるし」
「安全は大事よね」
そう呟いたユーナに、サランは足を組み替えながら頷いた。
「そう。だから、外で会ったお客さんを店に連れていくのはいいの。でも、店に行かないで商売をしちゃダメ」
「危ないから……?」
「それもある。でもオーナーに店外で客引きしたのバレたら、いい客を回してもらえなくなるわ」
(なるほど、娼婦業界もいろんな形態があるのね……ちょっと前までは娼館と言えば借金って感じだったけど)
私は自分の脳内の古い情報を更新しつつ、納得してグラスを拭き上げた。
「夕方にまたレストランが開くまで、ここにいていい?」
「いいわよ、混んでるわけじゃないからゆっくりしていって」
三人はまたメニューを覗き込み、今度は薬湯について賑やかに話し始めた。
私は少しカウンターから離れ、シンクの中の鍋やボウルを片付け始めた。
(三人とも、派手じゃないけど仕立てのいい服を着ている。普通の女性よりは収入があるのは間違いない)
だが危険性はそれなりに多い仕事なので、高給じゃなければ割に合わない。
レリアとユーナの身の上は知らないが、サランは親から虐待されており、どこかの街から逃げてきた子だ。
ワケアリなのは昔ながらの娼館にいる女性たちと変わらないのかもしれない。
借金があるかどうかは大きいと思う。
(本人の借金じゃない場合のほうが多いけれど……)
騙されてそんな借金を背負わされずに済んだだけ、サランのお店の女性たちはラッキーだったのかもしれない。
私は嫌なことなど経験したこともないように見える、純真無垢といった風情のサランの横顔をチラリと見た。
人は見かけによらない。
いい意味でも、悪い意味でも。
(男の人は、サランに夢見てるほうが幸せね)




