女の子たち①
今日の店内は甘い香りが漂い、華やかだ。
私はカウンターに並んだ三人の美女が真剣にメニューを吟味するのを静かに見守る。
一人は常連の娼婦、サラン。
連れの二人もお店の仲間と思われる。
「スムージーに果物いっぱいがいいかな」
「タルトも食べたいわ」
注文を受け、何種類かの果物を用意して洗い始めた私にサランが口を開いた。
「この子は新人のユーナっていうの。こっちの子は仲良しのレリア」
「来てくれてありがとう、気に入っていただけると良いのだけれど」
サランは屈託のない笑顔で頷いた。
「気に入らない理由は無いわ。このお店は私の一押しだもの」
「あら、嬉しい」
結局、あれもこれもと追加してスムージーはパフェのようになり、金額も跳ね上がったが彼女たちは怯む様子もない。
しっかり稼いでいるからだろう。
(借金で縛られた娼婦は店から滅多に出られないけれど……この子たちの店はそうじゃない)
彼女らは自ら選択して娼館で働く女の子たちだ。
街にはいくつかの娼館があるが、サランのいる店の価格帯は三番目くらいで、それなりに高給だと以前聞いた。
女性を買わずに、お酒と会話だけを楽しむお客さんが多いとも。
「もっと稼ぎたいけど、自由に稼げるのは今の店だけなのよねー」
「うん。お客さんから聞いただけだけど……老舗の高級娼館の値段は倍近いもの」
「ん、でもその倍のお金がもらえるわけじゃないもんね」
「一度面談に行ったことあるんだけど──」
レリアの言葉に、サランとユーナは驚きの声を上げた。
「え、そうなの」
「うん。でも寮に入らなきゃだし、外には出られない」
「厳しい!」
「ほら、借金とかワケアリの子しかいないから、脱走できないように最初から外出禁止なんだって」
「自分に借金がなくても?」
「そう。出入り自由にすると管理しきれなくなるから、働くなら給金は出すけれど同じ環境になるって」
「へえ……なら、今の店のほうが絶対良いな」
ユーナが結構な勢いでスムージーを攻略しながら呟いた。
「うん、そのほうがいいわ。客を取るかどうかも選べるし」
「あー、そこは本当に大事よね、そういう気になれない日もあるもん」
(飲みに行って、席に着いた女の子と個人的に合意すれば……ってシステムは女の子を守る意味もあるのよね)
「酌しかしない子もいるしね」
「んー、稼ごうと思ったら客は取らないとだけどね」
「あったかいミントティー追加で」
サランはミントティーをお供にスムージー食べきるつもりのようだ。
「……まあ、手元に来るお金は個人娼婦より少ないけど……お店で働けるのは安全だから、このままでいいかな~私は」
「個人なら、お客さんが払った全部のお金貰えるもんねぇ」
私は興味を惹かれ、質問することにした。
「一体どういうシステムになっているの」
「うちの店? お客さんがご馳走してくれる飲み物の料金の半分が貰えるのと、娼館の仕事が入ったらお客さんがお店に銀貨を払う」
「大陸銀貨……じゃないわよね」
「うん、世界に流通してる銀貨の方。イヴォーク銀貨なら銀貨一枚で十枚換算ね」
カフェの飲み物は一杯イヴォーク銀貨一枚だ。
サランの説明を補足するように、レリアが口を開いた。
「お店にお客さんが支払うのは二時間で銀貨一枚、宿泊だと三枚。私たちがもらうお金はお客さんと交渉して決めるの。そのお金は自分のものだけれど、シーツの洗濯代とか備品のお金は私たち持ち」
「へえ……」
いち早くスムージーを食べ終わったレリアが、再びメニューを眺めリンデンのハーブティーを注文した。
「お客さんが支払う総額を考えると、自分の値段はどうしても控えめにしなきゃなのよね。そこも交渉次第だけど」
「ほかの娼館の相場に合わせてね」
「なるほど……」
「だからお客さんが出すのは相場が基準。総額の半分くらいが私の手元に来るよう調整してる」
「強気なのはミランダだけよね」
「ああ、指名は三番手だけれど、売上はトップの…………」
「そうそう。ジューンさん、よく知ってるわね」
「この前ちょっと噂で聞いたの」
「そうなんだ。ミランダは男嫌いだから、ものすごい値段提示してるわよ」
「男嫌い……」
「うん、男っていうか『そういうこと』が嫌いなのよ。だから、回数じゃなくて一撃で稼ぐ」
「そんな働き方は、あの外見ならではよ? 私たちが同じことやっても稼げない」
サランはユーナに言い聞かせるように言った。
ユーナは首を傾げて、サランの方に顔を向けた。
「じゃあ、年を取って見た目で稼げなくなったら……」
「ミランダ、もう三十歳越えてるわよ」
「ええっ!」
「なんだろ、ミランダは頭もいいのよ」
「あんまり喋ったことないからわかんない」
「えっとね、外国語しか話さないお客さんと普通に喋ってるし、貴族の話とかいろんなことに詳しい」
「あ」
レリアが何か思い出したように声を上げた。
「なぁに」
「前にお客さんから、ミランダは貴族令嬢だったんじゃないかって聞かれたわ。知らないから知らないって言ったけど」
「あー、私も聞かれたことある。ミランダに聞いたこともある」
「え、そうなの」
「そう思わせておくほうがミステリアスでしょ、って言ってた」
「なによ、結局わかんないのね」
「お高く止まってるわけじゃないけど、あんまり喋る人じゃないしよくわかんないわね」
「激辛料理が好きなのは知ってる」
「あは、辛いもの食べたくなってきたわ」
私はスムージーのグラスを洗いながら、楽しそうな話し声に耳を傾けた。
(商品としての自分に物語のような付加価値をつけているのはどの女の子も一緒だけど……言わない物語も確かにある)




