親方と若い衆
「おう、なんでも好きなものを頼め」
大柄な男性が若い衆三人に向かって頷いた。
彼らは軽食セットを頼み、料金を追加して飲み物をスムージーとした。
「……二年ぶりかしら」
「いや、五年だ」
「そう?」
時間の感覚だけは、どうも人間とは合わない。
けれどこのアラハドさんが来たのは、久しぶりなのには変わりない。
「王宮の壁を補修する仕事をしてて──今朝契約満了で王宮を出てきた。夜は飲みに行くが、今は飯だ」
「そうだったのね」
王宮が何かを外部に発注した場合、厳格なルールがある。
通いは認められず、仕事が終わるまで王宮から出ることは許されない。
四人で五年となると、王宮全体の補修だったのかもしれない。
若い衆たちのもっぱらの話題は、夜に行く美女のいる店。
「前から不思議に思ってたんスけど」
若い衆の一人が、桃のタルトを追加注文してから話し始めた。
「今の一番人気はサランちゃん──ミランダは三番手だって言うのが不思議で」
ミランダというのは、すれ違った人が必ず振り返るような美女。
数回見かけたが、本当に美しい女性だ。
彼らが行く予定なのは有名な飲み屋さんだが、合意に達した場合は酌をする女性を買うことも可能だ。
つまり、娼館も兼ねている場所である。
一方、サランの方はたまにお茶を飲みに来る常連さんである。
平均より可愛らしい女性ではあるが、絶世の美女と言うほどではない。
「そうねえ」
私はタルトを皿に乗せながら、返事をした。
「人間の心理の問題なんじゃない」
「心理……」
「絶対手にはいらない宝石より、手が届くかもしれないという期待値の差なんじゃない?」
ミランダは美しいが、あまりにも完璧なので娼館に癒しを求めるタイプの男性からは敬遠されているのだろう。
一方、サランはそこらの女性たちよりは美しいがまだ『手の届く存在』に見えるんじゃないかな。
「ふむ」
「多分だけど、ミランダの客はミランダからの好意を求めていない」
「うん」
「サランの客は『その後の関係』も夢見れるからじゃない?」
「つまり、下心だな」
アラハドさんがゲラゲラと笑い始めた。
「サランちゃんだったら自分を好きになってくれるかもしれない、という夢が見られるからじゃない?」
一方、ミランダの需要はそこではない。
客は絶世の美女と過ごす時間だけを買う。
サランの客は、関係性も期待して夢を見るのだ。
話を振った若い衆は、ミランダ推し……何に価値を見出すかは、まさに人それぞれといったところだろう。
「身も蓋もないなぁ」
「でも、売れるか売れないかは客側の心理によるものが大きいのは確かよ」
「まあな」
「二番人気は今年入ったばかりのユーナだって聞いたが……」
「それもまた心理よね。この子はどんな子なんだろう、という興味を引くから」
「男ってやつはそんなもんなんだよ、もしかしたら恋人になれるかも、特別になれるかもって下心満載だからな」
「うーん、俺はその場だけ楽しみたいからなぁ」
「そういう男のほうが好かれるぞ。遊び方はスマートな方がいい」
アラハドの言葉に、若い衆たちは納得したように頷いた。
「相手は仕事だから、パーッと使ってサッと帰る方が好かれるのは確かね」
「だよなぁ。でもお気に入りの子が一緒に昼ご飯を食べてくれたら、特別感はある」
(店外の時間は女の子の収入にならないから、そこが好意を測る目安なのかしら)
ちなみに話題のサランは見た目と違って、かなり上昇志向が強く、気も強い。
お店では違うんだろうけれど、私の店に来ている時のサランはあけすけに物を言い、ざっくばらんに見えて計算高い面がある。
意地悪ではないが、損得勘定ははっきりしている子だ。
(夢を見せる能力値が高いんでしょうね)
自分を客の理想の女の子に見せられるのは、有能な証拠じゃないかな。
「楽しみだなぁ、ずっと外に出てないし酒もなしだったから」
「ははは、だが大儲けだったぞ。今日は俺が払うから、存分に楽しめ」
「親方ぁ! 一生ついていくッス!」
若い衆たちは大袈裟にアラハドさんを拝み、笑い声が店内を満たす。
彼らはこの後、外で事務を担っていた男性と再度合流して、夜の街に繰り出すらしい。
女の子情報は朝にその男性から聞いたものだそうだ。
(楽しそうで何よりね……)
欲は金を産む。
この店も、それは変わらない。
私の店の客は、お茶を飲んで好き勝手に話す時間を買っているのだ。




