絵手紙
「はい。五通ね、受け取りました」
私は受領サインをして、去っていく書簡屋さんに手を振った。
魔法で相手に書簡を送ることは可能だが、それには相手の受け取り魔法陣のアドレスを知っておく必要がある。
使える者も限られているので普及はしていない。
なので、大抵の書簡は全世界を網羅している書簡屋が扱っている。
郊外だがここは一応書簡屋配達エリアなので、持ってきてもらえる。
田舎だと食料品店にまとめて届いた書簡を、各自が持って帰るシステムだったりする。
(逆に出す時は──書簡屋の看板が立ってるお店ならどこでも、ってのが優秀なシステムなのよね)
料金を支払い、魔法陣を刻んだ箱に入れれば大集積所に転送される仕組みだ。
手紙類はそこで仕分けされ、街の集積所ごとに振り分けられていくのだ。
届いた書簡は、めったに来ない常連さんの来店予告だった。
まだ店があるかどうかの、確認。
長命種にはありがちな話だけれど、遠くに住んでいる人間にも当てはまる。
「手紙か……」
書簡屋を見送る私の様子を見て、冷たいリンデンティーを飲んでいた狼獣人の青年が唸るように呟いた。
「たまに来るのよ、店がまだあるかどうか」
「……返事は出すのか」
「返事くださいって書いてあればね。すでに家を出て移動中の人に手紙は届かないだろうし」
「俺はどうも手紙というものが苦手でなぁ……」
「そうなの?」
セディは渋い顔をして、頷いた。
「読むのは苦じゃないが、返事を書くのが……」
「なるほど」
「最近は手紙来るのも怖くなってきた」
「なんで」
「ずっと返事してないから」
確かにそれは気まずいかもしれない。
筆不精というのは本人も大変なのね。
気にはなってるのに書けない。
そうこうしてるうちに、次の手紙が来る。
「返事するのってそんなに大変かしらね」
「俺にとってはな。あとで、と思って一ヶ月とか」
「苦手だとそうなっちゃうかもね。今流行ってる絵手紙にしたらどう?」
「絵手紙」
「そう、絵手紙」
セディは硬そうな毛を一旦撫でつけてから返事をした。
「知らんなぁ」
「大きさは私の手くらいで──ちょっと硬い紙に、絵を描いてあるの。裏にあて先とひと言添えるだけ」
「ほう?」
「普通の手紙セットより割高だけれど、もらったほうは嬉しいんじゃないかな。雑貨屋さんに何種類か売ってたわよ」
「ひと言か。ひと言……」
「元気です、だけでもいいと思うけれど」
セディは少し驚いたように顔を上げた。
「それだけでいいのか」
「いいと思う。あなたは返事をしていないという罪悪感が無くなるし、先方は返事が来て嬉しい。いいんじゃない?」
セディは二杯目にたんぽぽコーヒーを注文した。
炒ったたんぽぽの根を私がすり鉢で細かくしているのを眺めながら、セディは話し始めた。
「手紙の相手は母と、恋人だけなんだ。二人分なら絵手紙で返事してみようかな」
「恋人にも返事してなかったの? それは重症ね」
「月に一回か二回は会ってるからなぁ……会った時に話せばいいだろ」
「それとこれとは別よ。毎回じゃなくていいから数回に一度は返事しときなさいよ」
煮出した根を濾し、ポットに移してカップと共にセディの前に置く。
先に飲んだのが冷たいものだったので、温かいコーヒーが欲しくなったのだろうか。
セディは嬉しそうにカップを持ち上げ、口に運んだ。
「美味い。酸味がないのは良いな」
「ああ、たんぽぽコーヒーにはほとんど酸味がないから」
「普通のコーヒーはなぁ。香りは好きだが、酸味が気になっちゃって」
「そうね、コーヒーによっては酸味が少ないものもあるけれど──その酸味がウリのコーヒーもあるし、たんぽぽコーヒーが好きならたんぽぽコーヒーでいいんじゃない?」
「そうだな」
雑貨屋で絵手紙を買うと言い、立ち去ったセディを窓辺から見送る。
(ちゃんと返事だせるのかしらね……)
私はエプロンに入れたままだった書簡を取り出し、じっくり眺めた。
二枚はさっきセディに話した絵手紙、もう三通は普通の封筒に入った手紙。
「絵手紙は綺麗よね」
貰えば、きっと嬉しい。




