↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
長命エルフの小さなカフェ〜今日はなに飲む?〜  作者: 藤 野乃


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/34

街の噂


 ──夜のシグルの街はさほど明るくはない。

 中心に近い位置にある王宮は燦然と輝いているが、それ以外の区域は所々出力の低いオレンジ色の魔導灯があるだけ。

 動力の魔核が高いので出力は最低にしてあるのだろう、その光量は暗闇ではないが明るくもない……といった程度だ。


 (確かにこれじゃあ、ちょっと離れた相手の顔は見えないわね……)


 そもそも歓楽街以外は、夜に出歩く人はあまり居ないから充分なのかもしれない。

 防犯にはならなさそうだけど。


「そもそも人気もないから目撃者なんて、タイミング良く現れないものね」


 件の娼婦連続殺人事件は、私の店とは逆の町外れにあるスラム街で起きているらしい。

 歓楽街にいる娼婦と違って、スラム街の娼婦は訳ありが多く、細かい注文はつけない場合が多い。

 格安で気軽に買えるとあって、スラム街の入口には客を待つ娼婦と客がちらほら見られるのだ。


 (ちゃんとしたお店の方が危険ではないのにねぇ……少しの金を惜しんで安い娼婦を買うなんて、リスクしかないのに)


 とは言ってもビジネスとして成り立っているのだから、需要はあるのだろう。

 スラム街まで足を伸ばすつもりはないが、私は歓楽街までブラブラと歩いていった。

 歓楽街はやや明るく、通りは賑やかだ。

 宿屋もこの周辺に集中しており、夜中まで開いているお店もいくつかある。


「…………」


 この中の誰が、人殺しの皮を被っているのか。


 (鑑定魔法である程度素性はわかるけれど……)


 鑑定を弾く魔道具は安価で、アクセサリーとして着けているものが多い。

 一般的に鑑定魔法をかけるのは失礼なことなので、防御のアイテムが流通しているのは当然だ。

 まあ、魔力差があればそんなものは突き抜けられるのだが。

 一見便利な鑑定魔法だが、魔力波が独特なのでかければ必ず相手に気が付かれる。

 無断でこっそりというわけにはいかないのだ。


「……帰るか」


 いつもと変わらぬ歓楽街をちょっとの間眺めて、私は自宅へと転移した。

 翌日、店を開けた私は街のお爺さん一人と若い三人連れの女性を迎えた。

 お爺さんは商売人だったが、今は悠々自適のご隠居さん。

 百歳近いはずだが、まだ足取りも軽やかで元気いっぱい。

 女性客たちは街の警邏隊員の奥様たちだ。


「おお、パスタがあるのか。んじゃパスタセットにするか」


 一席離れて陣取ったお爺さんはミートソースのパスタとミントティー。

 奥様たちはそれぞれ好みの果物を選び、スムージーを注文した。


「ねね、ジューンさんも聞いた?」


「なにかしら」


「ほら、今噂のスラム街の……ええと、個人営業の女性の」


「ああ、殺されたっていう」


「そうそう」


 やはり街は噂で持ちきりのようだ。


「うちの旦那なんて二回も休日がなくなっちゃって」


「うちもよ。もう十日も休んでないもの」


「そもそも街中を六人だけで警備するほうがおかしいと思わない?」


 奥様たちは殺人事件そのものより、ご主人たちの激務に不安を感じているようだ。


 (確かに隊長さん含めて六人は厳しそう)


 最後のスムージーを作り終え、出し終わった私は黙ったまま奥様たちの雑談に耳を傾けた。


「ね、あの場所がなければ……」


「ほんとよね、迷惑な話よね。そう思わない? サンドさん」


 声の高い奥さまが、お爺さんに話しかけた。

 サンドさんは白いひげについたミートソースを丁寧に拭い、口を開いた。


「そうだなぁ……娼婦は必要悪だと思うがね」


「ええーっ、必要かしら」


 サンドさんは頷き、奥さまたちに向き直った。


「欲求を発散できない男が、あんたたちみたいな奥さんや、そこらのお嬢さんを襲ったら困るじゃろ」


「…………」


「そういう意味では必要な仕事と思うがね」


「そう言われると、そうね……確かに」


「ここらは旅のものも多いから、尚更だ。女子供は用心しなきゃならん」


「そうね、本当にそうだわ。でもあの場所は何とかしてほしいわぁ」


「ほんとにね、近寄っただけで匂いもすごいし」


「なんとかならないのかしら」


 (誰が金を出してなんとかするか、よね。例えなんとか出来たとしても──そこの住民に、普通に生きていくための仕事を与えないと元の木阿弥だし)


「それより警邏隊の人員を増やしてほしいわ。夫は三人目を欲しがってるけど、家にいないんじゃもう無理って言っちゃったわ」


「ああ、あなたの親はヘイデンだものね」


「実家が近い人が羨ましいわ」


 奥さまたちの話題は、実家や義実家の愚痴へと変わっていった。

 サンドさんは本を取り出し、拡大レンズをかざしながら読み始めた。

 店内はいつも通り、優しい時間が流れている。

 エルフが作った安全領域は、脅かされることはない。


 (どうぞ、ごゆっくり)

 

 

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。