サーカス団①
今日のカフェは、二ヶ月ほど前に予約が入っていて丸一日の貸し切りだ。
私は全ての注文をこなし、きゃぁきゃぁと騒ぐ一団を微笑ましく眺めた。
簡易テーブルと椅子も出して、総勢三十名あまり。
小さな店内はハーフリングたちでギュウギュウだ。
彼らは平均六十センチ、背の高くても八十センチほどの身長で、見た目は人間とほぼ変わらないが、成人でも幼児のような姿で頭がちょっと大きい。
(不機嫌なハーフリングって、そう言えば見たことがないわね……)
ハーフリングはいつでも陽気なのだ。
数日後から始まる興行のため、このハーフリングのサーカス団はこの店で決起集会と称したパーティの最中である。
──もう百年ほど経っただろうか?
彼らが時々貸し切りパーティをするのは。
ハーフリングの寿命は二百年ほど。
座長は一度交代しているので、私の目の前にいる座長は二人目だ。
「でね、今年は新人さんが多いんだよ〜」
「そうなの」
「うんうん、ここ数年誰も応募して来なかったから嬉しいんだ〜」
座長のレイレイはとても機嫌が良かった。
何故カフェでパーティかというと、ハーフリングは全員下戸だからだ。
お酒を飲んだら倒れてしまう。
「チケットもね、一週間分のは完売!」
「このあたりは娯楽が少ないから、毎回満員御礼じゃないの」
「そうだねっ! ここらの娯楽って言うとお酒か、お姉さんのいるお店でしょ? 僕たちは万人向け!」
「ふふっ、そうね」
運動能力がとても高い彼らは、魔法こそ苦手だが……そのかわり、トリックが得意。
魔法は使わず、魔法のような手品を見せる。
それを証明するためにサーカスのテント内は魔法が使えない仕様になっている。
お客さんは毎回それを見て大喜びするのだ。
もちろん、テントの外では魔法が使えるので緊急時の手当ても万全。
「それで──」
「そう言えば」
私とレイレイの言葉が重なり、レイレイは丸い瞳をキラキラさせて口を噤んだ。
「なーに?お先にどうぞ!」
「そう言えばレイレイは男の子か女の子か聞きたかっただけ」
「なーんだ、僕は男だよ〜。確かにみんなハーフリングの性別わかんないって言うもんねっ」
そうなのだ、彼らはそれぞれ個性があるから見分けがつくが性別は判別しにくい。
「そうだったのね、覚えておくわ」
そう言って私は鍋のなかのシチューをかき回した。
今日は食べ放題飲み放題、ハーフリングはものすごく大喰らいなのだ。
毎回お腹をポンポコリンにして帰っていく。
「あ、僕の話はね……今回は二ヶ月ここで興行するんだけど」
「ええ」
「隔日で疲労回復の薬湯をいくつか届けてほしいんだ。空中ブランコとか、アクロバット担当の子たち用にね」
「いいわよ」
「人数は朝に伝えに行くから」
「わかったわ」
「ねえ、私の分は甘くしてほしい!」
口を挟んだのはミュウミュウ、女の子だ。
彼女は空中ブランコの花形スターでもう五十年以上トップの座を譲っていない猛者だ。
「この街の興行はいつも薬湯があるから、身体が楽!」
「うんうん、ほかの薬湯よりマシな味〜」
「ちゃんと効くし!」
さざなみのような笑い声が起きた。
「そうだ、湿布の注文は早めにだよ、みんな〜」
レイレイが思い出したように叫んだ。
紙と革袋が回され、湿布が欲しい子は名前と個数を書き込み革袋にお金をいれていく。
これは私がハーフリング用に調合したもので、一袋に二十枚入れてありお値段は大陸銀貨一枚。
何をするにしても大騒ぎで実に賑やかだ。
怒鳴り声とは違い、声が幼く楽しそうなので微笑ましく聞いていられる。
大鍋はあっという間に空になり、私は新しい鍋を出して中身を温め始める。
周囲に誰もいなくなったタイミングで、レイレイは少し深刻そうな顔をして囁いた。
「……ねえ、相談があるんだけど」
「密談?」
「うん」
「じゃあ、今夜また来て。帰らないで店で待ってるから」
「わかった」
いつもニコニコしているハーフリングの相談ってなんだろう?
私は鍋をかき回しながら首を傾げた。
それぞれに湿布を渡し、ハーフリングは帰っていき後片付けが済んだ頃……。
扉が少し開き、レイレイが滑るように暗い店内にやって来た。
「いらっしゃい。さて、秘密のお話って?」




