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長命エルフの小さなカフェ〜今日はなに飲む?〜  作者: 藤 野乃


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サーカス団②


「実は昔から時々あったことなんだけどさ」


 レイレイは椅子に飛び乗り、座ってからそう切り出した。


「僕たち、小さいでしょ? それに魔法もそんなに得意じゃない」


「ええ」


「誘拐されちゃうんだよ、もちろん未遂が多いけれど、運が悪い子は……」


「誘拐ねぇ……」


「非合法のね、奴隷商とかが裏にいるんだけど。僕たちはさらわれちゃった子を取り戻すすべがなくて」


「なるほど」


「だから、今回はジューンにお願いしたいことがあって。全員分の防犯バングルを作って欲しいんだ」


「付与ってこと?」


「そう。バングルは準備してある」


 防犯の付与ならば、難しくはない。

 もちろん性能次第だけれど。


「どういった感じのがいいの?」


「僕たちは親は違うけれど、家族なんだ。だから遠くに離れることがない」


「ええ」


「だから、単独で街から出たら警報が鳴って、追跡出来るのがいい」


「出た子のバングルじゃなくて、レイレイのバングルに合図がいけばいいのね」


「そう、それ!」


 レイレイの希望はずいぶんとざっくりだが、希望に沿うことは出来るだろう。

 同じ街にいた場合、単独で郊外に出ることのないハーフリング。

 レイレイのバングルだけは高くつくが、他のバングルは安価で済みそうだ。


「数人まとめて誘拐されるリスクも考慮したほうがいいわ」


「うん、そうだね」


「レイレイから単独で三キロ離れたら、レイレイのバングルを振動させる。いったん始動したら、近づくほど振動は強くなる」


「うん」


「複数人で誘拐された場合、誰か一人がバングルを三回叩けば警報始動のスイッチになるようにしましょうか」


「うん、それなら皆覚えられると思う!」


「合間を見ながら作るけど、十日くらい時間をくれる?」


「もちろんいいよ〜」


 レイレイはカウンターの上にバラバラと小さなバングルを出した。

 統一性はなく、色も形も材質も様々。

 自由なハーフリングならではのチョイスだ。


「レイレイのはどれ?」


「僕のはこれ!」


 小さな指の先には、派手なオレンジ色の木のバングル。


「じゃあ、これを親機にするわね」


 私はレイレイを送るために一緒に外に出た。

 砂漠の夜は寒い。

 日中の暑さはどこへやら、信じられないくらい気温が低いのだ。

 それは植物も雲も少ないので、空気中の水分が乏しいせい。

 保温する媒体が極端に少ないからだ。

 そのかわり、砂が舞い上がっていない静かな夜はとても星空が美しい。


「わあ、綺麗だねえ。あちこち旅してるけど、晴れた砂漠の星空が一番だよ」


「ふふ、風が少ない日ならではね」


「ああ、僕は今すごく安心したよ。これで寝る前に何回も皆いるかどうか数えなくて済む」


「点呼は大事じゃない?」


「うん、でもバングルがあったら一回で済みそうだから!」


「そうね」


 空には煌めく星と二つの月。

 空はどこまでも濃紺で、とても美しい。


「今回の興行が終わったら、新しくするんだけど」


「そうなの?」


「うん、もう三百年は使ってるからあちこちガタが来てて、危ないから」


「三百年……魔法術式が組まれたものなら、確かに見直したほうがいいかもね」


「次のは天井を紺色に塗って星と月を描いてもらおうかな。砂漠の夜空風に」


 うっとりと夜空を見上げるレイレイ。

 確かにサーカス小屋に入って夜空だったらロマンチックだと思う。

 非日常空間は吹っ切ったほうが絶対見栄えするものね。


「いいわね、絶対素敵だと思うわ」


「あ、そうだ。これ、フリーパス」


 レイレイは小さな肩掛け鞄から紙切れを取り出した。

 丈夫な紙に魔法インクで印を押してあるサーカスのチケットだ。


「いいの?」


「うん。これがあればここで興行中は無料だから、是非見に来て!」


 ハーフリングはいつも楽しそうで、いつもお金がない。

 レイレイも例外ではないが、まとまったお金が出来ればテントを新調したり、フリーパスを量産してしまうのだ。

 なので、お金は入れられるけれど、一年に一度しか空けられない魔導箱に売上の七割を収納している。

 団員たちはその時に十分なお給金を年払いでもらうシステムらしい。

 食料品や雑貨、今回のようなバングル料金も、毎年九の月に請求書を出す契約だ。

 魔導箱を開け、一気に精算するのがハーフリングのサーカス団のやり方だ。

 一度たりとも支払いが滞ったことはない。


 (魔導貯金箱を取り入れた先達のハーフリングは先見の明があったということね)


 あれば楽しく使ってしまうのがハーフリング。

 でも、決められた貯金は出来るし支払いも自分達で困らないよう年に一度。

 だが、それを可能にするのは長年の信用。

 レイレイはその信用をとても大事にしている。


「絶対来てね!」


 小さな手を振り、レイレイは跳ねるようにお宿に吸い込まれていった。

 

 

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