軽食③
大陸が変われば味の傾向も変わる。
イヴォーク大陸にある私のお店で出すものは、なるべくならイヴォーク大陸のものがいいのは確かなのだが。
クッキーのアテはある。
店から歩いて十分ほどの砂糖菓子のお店だ。
お店の商品ではないが、店主の家族の大婆様が焼く大きなクッキーが絶品なのだ。
お願いすると、いい小遣い稼ぎだと快く引き受けてくれた。
千枚くらい焼いてと言うと驚かれたが、前払いで支払うと大婆様は死ぬまでには仕上げると請け負ってくれた。
年は取っているけど、よく動く働き者なのですぐに納品されそうではあるけれどね。
パウンドケーキは別大陸のお店を選んだ。
雪が途切れることのない、寒いヴィランテ大陸の小さな村にあるパン屋さんだ。
ドライフルーツバターもたっぷりの、保存食めいたパウンドケーキだが名産のリキュールがガツンときいていて、とても美味しいのだ。
「こんにちはー」
「いらっしゃい、久しぶりだねえ」
「パウンドケーキはある?」
「昨日焼いたところだよ」
見ると八本のパウンドケーキが薄紙に包まれて、カウンターの横に積んである。
(全部買うのは他の人が困るかなぁ……)
「これ、何本なら買っていって大丈夫?」
「そうだねえ、常連さんもいるから……五本なら」
ここのパウンドケーキは大好きなのでいくつあっても問題ない。
まとめ買いしておくべきだ。
「じゃあ、今は五本。それとは別に百本注文したい」
「すぐには無理だけど、期限は?」
「この箱にためておいて」
私は時間停止型の魔道具箱を手渡した。
「こんな高価なもの置いていっていいのかい」
一人で四人(だったかな?)の孫を育てている女将さんは心配そうに言った。
「大丈夫、入れたあとは私しか取り出せないし盗んでも意味がないから。あ、代金は先に支払わせて」
「そりゃありがたいけど」
「適当な時期に取りに来るから、急がなくてもいいわ」
材料の仕入れにも時間のかかる村だし、五本は入手したので当面の在庫はある。
礼を言う女将さんに手を振り、私はお店をあとにし
た。
「次は、チーズケーキね」
チーズケーキもヴィランテの店がいい。
底と側面のクッキー生地が分厚くて、甘さ控えめながらも爽やかなレモンが僅かに漂うどっしりと詰まったチーズケーキである。
この店は宗教国家の都心部にあるので、頼めば個包装してくれそうだ。
どこの国に行ってもエルフは目立つし怖がられるのだが、宗教国家は特に排他的なので人間に扮して買いに行くことにした。
店に入ってしまえば店主とは親しいので問題はない。
「お、ジューン。珍しいな」
スラリと背が高い美青年がすぐに私を見つけてやってきた。
「お久しぶり」
「うん、百年ぶりくらい? 前に買い込んだチーズケーキは食っちまったのか?」
この店主はシルフで人と似てはいるけれど分類的には精霊に近く、長命種なので気心がしれている。
「もちろん、もう無い」
「はは、そうか。今度はいくつ買うつもりだ?」
「お店で出そうと思ってて、八等分カットして包装して欲しい」
「いいぞ、あっちの店にも八等分は出してるしな」
シルフは併設カフェを顎で指し示した。
「チーズケーキ百個分と……フワフワじゃないほうのチョコレートケーキ五十個分」
ズッシリタイプのチョコレートケーキも、甘さ控えめで美味しいのだ。
店に来てから思い出したので、それも注文しておこう。
箱を手渡し、料金を支払う。
何度もやりとりしているから、説明はしなくていい。
「今買っていく分はチーズケーキ三個分、チョコレート三個分」
「わかった。すぐ用意させる」
大きな店なので、包装はすぐに仕上がってきた。
私はお礼を言って、一度家に戻った。
「後は、パスタとサンドイッチに付けるスープか……」
これは一流レストランの黄金色のコンソメスープが大量にあるから、買わなくてもいいかな。
(とりあえずこれくらいメニューがあれば、充分よね)
軽食用のメニュー表も作らなくてはいけない。
そこまで儲けなくて良いから飲み物とセットでイヴォーク銀貨二枚でいい。
タルトセット、パスタセットは仕入れ値が高いのでイヴォーク銀貨二枚、銅貨五枚にしておこう。
季節の果物タルトセットはイヴォーク銀貨三枚。
(でも、お釣り出すの面倒だから銅貨設定は嫌だなぁ……)
「…………」
うん、パスタには大きなカップでスープをつけて銀貨二枚。
飲み物は別。
タルトセットには、ドライフルーツとナッツを混ぜ込んだクリームチーズを添えて三枚。
「これでいいや」
もちろん、自作と勘違いされては困るので店の名前も記載しておいた。




