軽食②
さて、お次はケーキ屋さんだ。
予定しているのはパウンドケーキとチーズケーキ、フルーツタルト。
(クリームでデコレーションされているのは出しにくそうだから無しね)
全部同じ店で買う予定はなくて、それぞれ私が気に入っているお店で買う。
(ヘイデンで済ませられそうなのは、タルトとパスタね)
「こんにちはー」
私は小さなタルト専門店に足を踏み入れた。
ここも長いお付き合いで、現在は三代目の若夫婦が切り盛りしている。
「まあ、お久しぶりね」
先代の奥様がニコニコと寄ってきた。
先代が亡くなってから、顔を見ていなかったけれど元気そうで良かった。
「今日はね、大量注文なんだけど……」
「まあまあ!有難いわ、大歓迎よ」
「お店で出すから、カットしてあるものが良くて、一個一個軽く紙で包んで貰いたいの」
「紙ごとお皿に乗せるの? それとも包装は取って提供するの?」
どっちがいいんだろうか。
「どっちがいいと思う?」
「タルトは色味も楽しんでほしいから、包装は取って白いお皿で出す方が綺麗よ」
「……確かにそうね。じゃあ、そうする」
商品はひんやりと冷やされたガラスケースに並んでいるが、全部はカットはされていない。
半分、小さくても四分の一くらいで売られているのだ。
注文ごとに若奥様がカットしてくれる仕様である。
「お店で出すなら、うちのタルトは大きいから八等分ね」
「そうね。八等分でも大きくて、充分食べ応えがあるわ」
「うふふ、味も大きさも売りだもの」
「ふむ……そうか、タルトだと季節の果物タルトがあったか……」
どうする?
定番品だけにするか、季節の果物タルトも取り入れるか。
「一番人気は旬の果物のタルトよ」
「そうよね。うーん……三種のベリーのタルト、レモンメレンゲのタルトは定番で置くとして……」
頻繁にお店を巡るのは面倒だから、私は気に入ったものはまとめ買いするのだけれど。
(お店用にまとめ買い……まあ、余っても問題ないからいいか)
「季節の果物ってどれくらいの周期で変わるの?」
「うちは二ヶ月おきに変えてるの。今だと桃」
「どれ? うわぁ、おいしそうね」
「そうでしょう! 果物も良いものしか使ってないからね」
縁がほんのりピンクに染まった白桃のタルトは、たっぷりの薄切り白桃が整然と渦を巻くように仕立てられている。
「コレはアリね……」
「中身も白桃が詰まってるから、オススメよ」
「うん、季節の果物タルトも入れよう」
一個を八等分。
毎日来るお客さんはさほど多くはない。
とりあえず全部控えめに買って、様子を見よう。
「じゃあ、とりあえずベリー、レモンは三個で……桃をワンホール。全部八等分カット、一切れずつ簡易包装で」
「ありがとうございます。ちょっと待っててね」
先代の奥様はショーケースの奥へ行き、すぐ戻ってきた。
「包装に三十分ほどいただける? その間、私とお茶でも飲みましょう」
私はお店の隅で、紅茶をいただきながら待つことにした。
連れ合いを亡くして沈み込みがちだった先代奥様が店番に復帰したのは若奥様が去年、三人目を産んだ頃から。
気が紛れていいわ、とニッコリする先代の奥様と喋ってる間に包装は仕上がった。
料金を支払い、挨拶を済ませたあとは一旦帰宅。
(桃のタルトを食べてみないとね)
思った通り、白桃ぎっしりの素晴らしいタルトだったので勢い余って二切れ食べてしまった。
「ふぅ。満足満足」
さて、次はパスタ。
幸いなことに、シンプルな白いお皿が三百枚くらい時空庫に眠っている。
皿に盛り付けてもらって時空庫に入れれば出すだけで済む。
(なんのパスタにするかは店主と相談ね……)
「こんにちはー」
時刻はお昼時のあとの、空いている時を選んで訪ねる。
夜まではお店が開いていないので、裏口から。
「なんだい……おや、エルフの嬢ちゃんか。どうした?」
スキンヘッドでマッチョな店主がドアを開けて、驚いたように言った。
「ちょっと変わった注文があって……」
玉ねぎの箱に腰掛け、商談開始。
「皿に盛り付けて……その箱に入れておくだけ?」
「そう。で、香りは強くないパスタがいいのよ」
「ふーん、そうなるとチーズソースが良いんじゃないか? 焼き野菜を添えれば綺麗だぞ」
「いいわねえ」
「あとは冷製パスタだな。冷たい状態ならニンニクの香りも抑えられる。他のも控えめにできるぞ」
(なるほど、確かに……)
「じゃあ……チーズソースのと、トマトの冷製パスタ。あとはニンニク控えめのキノコのパスタを百皿ずつで」
「ミートソースは?」
「あっ……確かにミートソースは定番よねぇ」
打ち合わせの結果、ミートソースとキノコが九十ずつ、チーズソースと冷製パスタは六十ずつで話はまとまった。
ここでも前払いで精算し、お皿と魔道具の箱を置いていく。
(パスタ食べたかった……でももう入らないわ)




