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長命エルフの小さなカフェ〜今日はなに飲む?〜  作者: 藤 野乃


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17/25

軽食①


「…………」


 私はお店用のメモを見て、もう一度見返した。

 メモと言っても日付とその日に売れた物が主で、時折印象深かったことを簡単に書き記しているだけだが。


「ハーブティーの店なのに……」


 一番の売れ筋はミントティー。

 二番手は果実を浮かべた果実水。

 三番手はたんぽぽコーヒー。

 その後はスムージー。


 ミントティーはハーブティーで合ってるが、この偏りは砂漠だからなのだろうか。


 (ま、いいけども)


 砂漠地帯は過酷な環境なので、そこに存在してるだけで体力を消耗する。

 なので、砂糖をたっぷり入れて飲む人が多く、料理も濃くて脂っこいものがメインだ。

 身体がカロリーを欲しているからかな。


「んー、目新しいものを追加したいんだけどな」


 注文されているドリンクの傾向は百年以上似た感じだ。

 ドリンク以外で目新しい物がいい。


 そんなに混む店でもないから、軽食をメニューに加えてもいいけれど。


 (軽食を三種類くらい常設するか)


 そうする場合、もちろん外注にする。

 時空庫では時間が停止しているから、保存は問題ない。

 料理中の香りは良いものだけれど、お茶だけ飲みに来た人には雑音にしかならない。

 すでに出来た料理の香りはそこまで邪魔にならないと思う。


「ケーキセット、クッキーセットあたりは問題なさそう」


 (後はサンドイッチとか香りの強くないパスタ、スープくらいかな……)


 今日は定休日にしたので、あちこちお気に入りの店から軽食を集めてこよう。

 こういう時、転移が出来ると本当に便利。

 まずはこの大陸一番の大国、ヘイデンから。

 私は立ち上がり、静かに転移をした。


「こんにちはー」


 訪ねたのは郊外にある小さなパン屋さん。

 年配のご夫婦がやっていて、とても美味しい。

 あと数年したら引退すると言っているのが残念。

 ここのタマゴサンドが絶品で、個人的に大好きなお店だ。


「今日は何を?」


 奥様が私の顔を見て穏やかに聞いてきた。

 最初はエルフということで怖がらせてしまったが、四十年通い続けているのですっかり顔馴染みだ。


「お店でね、サンドイッチを提供しようと思って」


「いいわねえ、お父さんと死ぬ前に一回あなたの店に行ってみたいと昨日ちょうど話してたのよ」


「引退したら、転移で招待するわ」


「まあ、嬉しい!──それでサンドイッチはどういうものにするの?」


 店内にはパンが幾つか並べられているが、大量ではない。

 近所の住民が買って、ちょうど無くなるくらいしか置いてないのだ。

 なので、今日は購入と言うよりは注文だ。


「きゅうりとハムのサンド、タマゴサンド、あとはおすすめある?」


 奥様は目尻の皺を深め、微笑んだ。


「鶏肉サンド……コケットの揚げたものと野菜のが一番人気よ。ピクルスがいっぱい入っているの」


「へえ」


 奥様の作るピクルスは絶品で、無限に食べられる。

 それは買わないといけないわね。

 揚げた鶏肉が美味しくないはずないし。


「じゃあ、それも。数はそうねえ、五百ずつ」


「ええっ、そりゃまた多いわねぇ…すぐには無理だと思うわ」


 小さなパン屋さんだものね。


「魔道具の箱を持ってきたの。時間停止型だから、できた順に入れてくれればいいわ」


「ああ、それなら少しずつでも溜まっていくわね」


「お、ジューンさん。いつもありがとう……って魔道具かい?」


 奥で作業をしていたご主人がゆっくり歩いてきて、箱を覗き込む。

 背中が曲がってきているし、最近は歩くのも遅くなった。

 でもパンを焼ける限りは店を続けると、常日頃から宣言している。


「そう。コレに注文したものを」


「んん? 何を注文したんだい? おやまあ、千五百とは」


「急がなくていいの、出来た順に入れていってくれれば」


「ふむ……」


 ご主人はしばらく考え込んだ。

 私が前払いをすると言って、奥様に精算してもらっていると彼はようやく口を開いた。


「サンドイッチのあとの切れ端を揚げて砂糖をまぶしたオヤツなんてどうだ?」


「あら、商売上手ね。でもアレは美味しいからアリね、じゃあそれも買うわ」


 まとめてお金を払ったあと、ご主人は手を振って奥へ戻っていった。

 私は奥様と包装についての打ち合わせだ。


「お皿にそのまま出せる形状がいいから、サンドイッチはきれいな紙で軽く包む感じがいい。揚げたミミは八本ずつ紙で──」


「あ、揚げたミミはチーズと黒胡椒味にも出来るのよ、意外と人気よ」


 奥様は思い出したようにパチンと手を叩いた。


 (それはいい……美味しそう)


「じゃあ、味付けは半々で作ってもらおうかな。紙の色はそれぞれ変えてもらって」


「いいわよ」


 この店はごく普通の茶色い紙でパンを包んでいるので、注文品は特別仕様になる。


「紙の仕入れ先はある?」


「あるわ、色付きの紙を売ってるのも知ってるからそれを頼もうと思ってるの」


「じゃあ包装代は別で支払う。あともう一つお願いがあって」


「なにかしら」


 私はもう一つ、魔道具の箱を出した。


「こっちは私用。タマゴサンド千個くらい欲しい。期限は引退するまででいい」


 奥様がカタログを見て包装代の値段を決め、それと一緒に自分用のサンドイッチも前払いにしてもらう。


 (前払いが一番。うっかり時間が過ぎてしまっても、迷惑かけることがないから)

 

「あなた、本当にタマゴサンドが好きなのねぇ……」


「ふふ、ここのは最高だもの」


 私は大満足で、小さなパン屋をあとにした。

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