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長命エルフの小さなカフェ〜今日はなに飲む?〜  作者: 藤 野乃


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12/17

白龍④


 カフェはしばらく臨時休業。

 私は自分のために集中力を高める薬湯を淹れ、飲み干した。

 深呼吸をして、床に置いた白龍の卵に視線を移す。


 隙間なく貼り付けられた宝石……まずは接着しているものを特定しなければいけない。


「あ、良かった……ニカワだわ」


 幸いなことに、接着素材は組成の単純な膠だった。

 これならば、温めれば緩むはず。

 中身は龍というだけあって、熱湯でも大丈夫そうではあるけれど……間違っても茹で卵にしてはいけない。

 私は慎重に暖かい風を当てていく作戦を取った。


「変な魔法接着剤だったら大変だったわ」


 てっぺんの一際大きなルビーに指をかけ、動かしてみる。

 もう少し温度を上げて、慎重に前後左右に動かす。

 外れた石は一旦脇のボウルに入れておく。

 こっちの膠除去は時間のある時でいい。


 (地味な作業だけれど……、やるしかない)


 卵の成分は鶏卵と同じように炭酸カルシウムが主成分ではあるけれど、魔物の場合魔力膜で覆われている。

 龍も然り。

 なので、こちらから強い魔力を当てない限りは魔力膜に干渉することはない。

 理論上は、このまま作業を続けても卵殻に傷をいれることはないはずだ。


 (と言っても、こんな作業初めてだから勝手がわからないわ)


 この宝石を貼り付けた人、怖くなかったのかしら。

 魔力膜のせいで分厚い膠の層が出来ているけれど……こんなに埋め立てちゃうなら、龍卵じゃなくても良かったのでは?


「私の仕事じゃないからどうでもいいけれど──」


 生きてる卵に膠って、悪趣味だと思うわ。


 上部の三割を剥がし終え、もう一度薬湯を飲む。

 ローズマリーを多めにしたミントティー。


「ふう……」


 窓の外を見てみたが、親龍の影はない。

 言われた通り、砂漠の端で待機しているのだろう。

 世間の人々は龍を恐れるけれど、龍は無闇矢鱈に暴れる生き物ではない。

 もちろん人間社会と同じように、大多数から逸脱する個体もいる。

 そういう個体は残念ながら討伐対象になってしまうけれど、大抵の場合龍が人里に接触してくるのは理由あっての事だ。


 (龍は言葉を発しないし、積極的なコミュニケーションもしてこないけれど……とても賢い)


 人語は理解していると思っていい。

 彼らは喋らないけれど。


「大体は卵泥棒、宝泥棒を追い回してるだけなのよね〜」


 七割を剥がし終えた。

 後は床に近い部分だけだから、座り込んで作業をするしかない。

 丸一日かけて、残ったのは台座の部分だけとなった。


「うーん、ひっくり返すか横向きにするしかない」


 大きすぎて、物理的に抱えあげて作業するのは無理だ。

 かといって横倒しにするのは怖い。

 卵というものは、縦からの圧力には強いけれど横からの力には弱いものだから。

 結局、大きな粘土の塊を出して逆さまに卵を固定して台座を引き剥がすことにした。

 範囲が大きいので、簡単には膠が温まらない。

 揺すっても緩む気配がないが、諦めず暖めること数時間。

 ようやく台座が動かせるようになった。


 (冷やさないよう、温度はこのまま……)


 悪戦苦闘はしたが、どうにか卵を割ることなく木製の台座を取り外すことが出来た。


「なにこれ、魔法陣じゃないの」


 木の台座から膠を落とすと、魔法陣を彫り込んだ湾曲面が現れた。

 卵に接していた部分である。


「効果は……時を遅くする作用か」


 時をゆっくりにしたところで、死卵じゃない以上いつかは孵っちゃうと思うのだけれど。

 少なくとも、アーイシャ妃の存命中は孵らないが。


「ん?」


 よく見たら、巧妙に外に向けて出力される魔法陣が隠されている。


「これは……避妊の魔法陣」


 アーイシャ妃はまだ子を産める年齢ではないが、つまりそういうことなのだろう。

 


 (まあいいわ、後は卵に残ってる膠を取っていきましょう)


 私と白龍には、政治なんて関係ないもの。

 多少落としきれない膠はくっついているが、卵はきれいになった。

 が、今度は時空庫に入れられなくなった。

 生き物判定になってしまったようだ。


「え、どうしよう。ドア通れない」


 卵に手を当て、外に転移してみたが卵は転移を受け付けない。

 移動系の魔法を弾くのも、龍の卵が入手困難な理由の一つだ。

 

 結局ドアを壊して、魔法で浮かせたまま砂漠を飛んでいく羽目になった。

 非効率過ぎて悲しくなりながらも、数時間後にようやく親龍の待機場所に到着。

 美しい白龍は、卵を大切そうに前脚で掴み音もなく飛び去っていった。

 砂粒一つさえ巻き上げずに。


「あー……帰ったらドアを直さなくちゃ」

 


 

 


 

 

 

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