1-3 エーデルワイス~高嶺の花~ その3
花屋を出た途端にタカシが現れたのには驚いた。こういうことするタイプだったんだ。もしかして私が距離を置こうとしたのに気付いたのかもしれない。
彼を近場の中華料理屋に誘ったのはいくつか理由がある。
まずは間違っても口説いてくるのは避けたい! ということ。私はまだタカシを許せていないもの。さすがにこの町中華で口説けないでしょう。
そしてもうひとつは私が浮気してるなんて思われるのは心外だってこと。タカシに会いたくないのはそういうことジャナイ。
さらにもうひとつ、あの『ラーメン女』へのあてつけ。もっともタカシはまったく気づいてないようだけど。
ほんっと私って性格悪い。
(エーデルワイス?)
およそ私と掛け離れている花の名を言い出したタカシはやっぱり何か誤解してるみたい。エーデルワイスはオーストリアの国花、私をそんな高貴なお花に例えるなんてどうかしてる。
「香菜さんは花にも詳しいんですね」
「そうでもないわ、最近知ったことばかりで。でも勉強するって楽しいの」
「あの店員さんが講師?」
「ええ、そうよ。私みたいな出来の悪い生徒にも一生懸命教えてくれて申し訳ないくらい。コンテストの勉強とかもしたいはずなのに」
「コンテストの勉強も。夜までお店にいるのに?」
「夜は男性でないと危ないからどうしても彼がラストのシフトになってしまうんですって」
「そりゃ大変だ。花屋の店員さんていうのも若いうちだからできるんだろうなぁ」
なんとなく、タカシの口ぶりに違和感を感じた。何かそういった職業を下に見るような、自分は成功しているとでも言いたげな。
聞いて私は(パラリーガルってそんなに偉いか?)とちょっとイラっとした。それは私がただのOLだという引け目のせいなんだろうか、それとも…
「大変だけど、私はモノを作り出せる人やデザイン力がある人って羨ましいと思うわ」
「そうだね、そういう特別な才能がある人は素敵だ」
嫌味に聞こえたかもしれないと気付いたのかさらりと言葉を修正してきた。タカシってきっと上司の覚えも良くて、たぶんモテてきたんだろうな。
なんで陰キャで港区在住以外に取り柄のない私なんかと…いや、取り柄がないからか、私なんかどうとでもなると思ってる? だからあんな舐めたマネを?
餃子とラーメンを大きな口を開けて食べてみた。タカシはいつもと変わりないように見えたから、やはり私の悪意は伝わっていない。むしろいつもより楽しそうだ。
こうやって彼の好みに合わせていけば、それなりに幸せで楽しく過ごせるのかもしれないが、それは正しい答なんだろうか。
タカシはその夜、私を家まで送り届けてそのまま帰って行った。
きっと、私が花屋を口実に誰かと会っているのかと勘ぐったんだろうけど、それはハズレだったからほっとしたようだ。
女々しいけど可愛いヤキモチと言えなくもない。
いやいや、自分は他の女と遊んでいるのに、私がよそ見をしたら許せないって、それはモラハラじゃないの?
でもそれよりも深刻なのは、私がタカシに対してまったくそんな気持ちが起きないということ。悔しいとか悲しいとかじゃなく、めんどくさいと思ってしまうなんてもう答が出てるのかしら。




