1-3 エーデルワイス~高嶺の花~ その2
「香菜さん、お食事は?」
僕はなるべく軽い調子で言ってみた。
「まだですけど」
「僕もまだなんですよ」
「そうですか、行きつけの中華屋さんに予約入れてしまったんで、そちらでよければご一緒します?」
香菜は余計なことを何も訊かなかった。連絡もなしに来たのに詮索がましいことも言わない。
僕はと言えば、彼女がひとりで食事するつもりだったことを知って本当にいたたまれなかった。あの花屋の店員でもなく、花屋で誰かと待ち合わせしていたわけでもない、これじゃただの小心者だ。
香菜の行きつけの中華料理屋はいわゆる町中華で、彼女が子供の頃から営業している店だという。老夫婦がニコニコと愛想よく香菜を孫のように嬉し気に迎えた。
「こういうお店っていいですね」
「気に入っていただいて良かったわ」
香菜はくつろいだ様子で老夫婦や店員たちと話していた。花屋でアレンジメントを習っているがちっとも上達しないこと、ずいぶん可愛らしい花に例えられて恥ずかしかったことなど。
「あらあら口の上手い花屋さんだねえ」
「お世辞に決まってるじゃない、私はお客さんだもの」
「ラナンキュラスって」
僕はそっとスマホで検索してみた。
鮮やかな色のふっくらした花、なるほど愛らしくもあり華やかでもある美しい花だ。
「素敵な花だけど、僕は香菜さんに会ったとき別の花が浮かんだな」
「あら、何かしら」
「エーデルワイス」
「ええっと、あのミュージカルで有名な?」
「そうそう」
高山植物で日本では滅多に見られない。ドイツ語で「高貴な白」という意味だというのは調べた。しかし、僕がイメージしたのは単純に『高山植物=高嶺の花』ということだった。
「私、そんな聖女様キャラなイメージありましたっけ?」
香菜は不思議そうな顔をした。
「いや、あの、僕があんまり花に詳しくないんで、あのミュージカルが好きだからつい」
香菜の前で生半可な知識は鬼門だ。彼女は自覚していないが同年代の女性と比べると格段に知識の幅が広い。けれど僕が大した知識もなく口にした言葉を追い詰めるようなことはしない。
「ありがとう、でもやっぱり照れるわね」




