4-4 スイトピー~別れの歌~その2
日本から王子様がやってきた。
ママンはときどきホームステイ希望の学生を受け入れてるけど、今回は日本の知り合いの頼みで、フローリストの学校へ通う人に部屋を貸すことになった。
その人はとても綺麗な顔をしていて、見つめられるとドキッとしちゃう。アジア人は若く見える人が多いけど、彼は12歳の私より10コ以上も上だそうだ。会話はアプリがあるのでなんとかなるけど、基本的には無口で暇さえあれば花をいじっている。
ただ微笑むととても可愛い顔になるので、マルシェのおばちゃんたちには好評で、買い物に行くと何かしらお土産を貰って来て私にもお菓子をくれた。仕方ないけどまるっきり子供扱いだ。
おうちに素敵な人がいるってそれだけでウキウキする。休みの日に遊びに誘ってみたけど、彼は美術館や花屋を見て回っていた。それも勉強のひとつなんだって。
私が案内してあげるって言っても「Ce n'est pas pour le plaisir」(遊びに行くわけではないので)と断られてしまった。
彼のSNSを見るとパリの日々や作品をアップしていた。翻訳してみたら彼は日本でもファンが多いフローリストでちゃんとしたプロだった。パリに来たのは勉強もあるけどグローバルな経験を積むためと書いてあって、近々ローカルだけどパリのフラワーコンテストにも出場するらしい。
ママンに聞いてみるととっくに知っていて「もちろん、応援に行くわよ」だって。きっとパリには知り合いなんていないから応援がいなくては心細いでしょうから、てことらしい。
花のコンテストなんて見たことないけど私も行くつもりだ。
何故って…
夕方、セーヌの橋で彼を見かけたことがある。
いまにも泣きそうな顔で東の空を見ていた。私たちの前ではけして見せない顔、ホームシックかもしれない。せめてコンテストでは実力が出せるように応援してあげなきゃ。
彼は「Merci, tkt」(ありがとう、心配ないよ)と言って笑い、「Ne le dites a personne. Je vais me faire gronder」(誰にも言わないで、怒られちゃうから)と言った。
怒られる…誰に?




