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4-2 チェリーブロッサム~桜咲け~その2

挿絵(By みてみん)

名古屋城近郊のイベントホールで開催されたフラワーコンテストは国内屈指の大規模なもので、事前審査を通過した人だけでも100人近くになる。

ケンジは事前に知らされたテーマで作品を作る一次選考はなんなく通過、20人に絞られたセミファイナルに進んだ。


そこで彼に言わせれば大失敗をしたらしいんだが、私は付き添いのトシくんに話を聞くまで何がいけないのかさえわからなかった。

真っ青な顔でどこかへ行こうとするので心配になってついて行ったが、なんのことはない、ちゃんとファイナルに進んでいた。


私は成績が悪かったら会わずに帰ろうと思っていた。

私に来てほしくないと言ったのはたぶんちっちゃな見栄のせいだ。予選落ちなんてカッコ悪いと思ってるんだろう。

さすがにファイナルまで行けば堂々と応援したっていいよね。


「トシくん、これは何事?」


会場に戻るとずいぶん賑やかなことになっていて、ケンジがたくさんの女性に囲まれて写真を撮られていた。

ファイナルは10人に絞られているから、セミファイナルより応援団は減っているはずなのだが、逆に増えているくらいだ。


「あ、香菜さん。先輩の俄かファンですよ、怒らないでくださいね」


「なんで怒るのよ、けっこうなことじゃない。テーマは?」


「まだです、でも水盤がありますからそっち系ですね」


なるほど作業台の上に船のような形の大きな水盤が置かれている。そっち系っていうのがどっち系なのかは私にはさっぱりだが。

そして配られた花材、資材のチェックが終わるとテーマが発表された。


「では、テーマを発表いたします。テーマは『ホライゾン』です」


なるほどそれで水盤、でもこれは? 具体的なような抽象的なような。


「時間は60分、スタートです!」


選手が一斉に動き始めた。さすがにファイナルに残るような人はベテランばかりで動きにまったく無駄がない。


「ねえ、トシくん。ケンジが全然動かないけど大丈夫なの?」


「大丈夫っす、あれが先輩の本来のスタイルですから。全部頭の中で構築してから一気に作ります」


「セミファイナルのときと違うのね」


「さっきはテーマが具体的で考えるまでもないって感じでしたから」


「時間は間に合うの?」


「先輩なら問題ないっす。見ててください、動き出したら誰よりも速いはずっすよ」


ケンジは15分ほどじっと動かなかった。

だがその後


(はやっ!)


私だけでなく観客がどよめいた。

他の選手より明らかに速い、そして速いだけでなく正確で迷いがない。

次々と花材が切られ曲げられ、そして水盤と背後のスチールの棚に配置されていくが、まるであらかじめそこにあるのが当然といった自信にあふれた動作だった。


(ケンジ、見えてるんだね)


私が心配することは何もない、60分はあっという間だった。


「お疲れ様」と控室で迎えると、ケンジは疲れ果てて椅子に座るなり眠ってしまった。

私は肩を貸したまま思い出していた。ケンジの部屋、何もない部屋で「香菜」と呟きながら眠っていたあのイヴの夜。

女は邪魔だなんて言ってたくせに、切なそうに私を呼んでいた。だから私は諦めないことにしたあの夜。


(よかった、この人の努力は全部無駄じゃなかったのね)


私は何もしていないけれど誇らしかった。


トシくんも言っていたように、このコンテストが簡単なものじゃないことくらいちょっと調べればすぐわかる、いきなり新人が賞を獲れるようなものじゃない。

それでも結果がどうであれ私が金メダルをあげようと思っていた。


実際、表彰式で3位までの入賞者が発表されたが彼の名前はなかった。

けれど最後に


「今回異例ではありますが、審査員奨励賞としてお二人の名前を上げさせていただきます。

大阪府吹田市、フローリスト花龍、柳田史也さん、そして東京都渋谷区、浅野花卉、桜井ケンジさん。お二人とも若いながら大変卓越した技術と瑞々しい感覚をお持ちなので、これからの活躍に期待したいと…」


その後はよく覚えていない。

ただケンジが賞状を貰った後、くしゃくしゃの髪と顔で私に走ってきてハグしたのは覚えてる。


「僕、カエルになれました?」


「王子様だよ」


「もう逃げない、逃がさない」


ケンジが泣きそうな声で囁いている。

後から考えると相当恥ずかしい絵だったと思う。


そしてその日、私たちは初めて二人で朝を迎えた。


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