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4-1 ガーベラ~挑む心~その2

それからしばらくの間はとても静かな時間が過ぎた。

ケンジは一次審査を無事に通過し選抜予選へと進んでいた。


「先輩は次のセミファイナルまでは経験あるんすよ」


「全国規模でセミファイナルならすごいじゃない」


「もちろんそうだけどもっと上に行きたいみたいっすよ、なぜだか知らないけどぉ」


お客の少ない時間に店に遊びに行くとケンジは難しい顔で練習ばかりしているが、後輩のトシくんがコンテストについていろいろ教えてくれる。


コンテストと言っても選考方法はいろいろあって、今回のはかなり難しいのだそうだ。


「セミファイナルからは当日まで何も教えてもらえないんすよ。花材の種類もテーマも」


「ぶっつけ本番ってこと」


「そう、技術はもちろん瞬発力発想力、それに体力も。予選から決勝まで数時間ずっと集中してないといけないからきついっす」


「あんなひょろひょろで大丈夫かしら」


「先輩は持久力はあるタイプっすよ。でもいちばんやっかいなのはテーマがバラバラなことなんす。具体的な時もあるし抽象的な時もあるしで」


「結婚式のブーケとかじゃないのね」


「例えば『南仏のリゾートホテルのロビーに飾る』ならイメージしやすいけど、『点と線と面の融合』とかなんじゃこりゃみたいのだと受け止め方次第ってわけで」


「それで二人で禅問答みたいなことしてるの?」


お題を出して頭の中でイメトレするのも練習になるのだそうだ。


「そう、どんなお題が来ても慌てないように。ところで」


トシくんが耳元に顔を寄せてきた。

ケンジが横目で見ているのが分かって笑いを堪えている。


「二人はどうなってんすか? 傍から見ると『もう、付き合っちゃえよ』って感じなすけど。もしかして『私を甲子園に連れてって~』みたいな感じっすか?」


「どうかなぁ、女は苦手らしいわよ」


「へえ、じゃあ僕と付き合っちゃいましょうか」


「聞こえてるぞ」


「先輩、これくらいで集中切らしちゃだめでしょ」


「うるせっ」


ハサミを持った手を振り上げたのを見てヨシ君が舌を出した。


「ハサミ投げたら失格ですよ~」


「そうなの?」


「投げた人見たことないけど、たぶん。それに終了の時に作業台にちょっとでもゴミがあると減点なんす」


(それで)


私はケンジの部屋が何もなくて神経質なほど片付いていたのを思い出した。


「ケッペキ入ってるのかと思ってたわ」


「綺麗好きでないと花屋はできないんすよ」


「トシくんはもうちょっと綺麗好きになってもいいぞ」


「僕はコンテストなんか出ないんで。香菜さんは応援に行くんすか?」


「来なくていいです、気が散ります」


そう言ってケンジはバックヤードに引っ込んでしまった。


「だってさ、香菜さん」


なんだかピリピリしている気がする。

私は甲子園に連れてって欲しいわけじゃないし、言った覚えもないのに。

コンテストで勝ちたいって言うのはケンジのマイルールみたいなもので自分を追い込んでるだけじゃないかしら。


オタマまで退化しちゃった彼にしてみれば挽回のチャンスは欲しいでしょうけど…。


「香菜さん、ここだけの話ですけど慰める準備しといてくださいね」


「そうなの?」


「あのコンテストでセミファイナルに進むのだって大変なんです。それを新人がファイナルで賞を獲るなんて天才技っすよ」


「そんな大変なコンテストなの!」


これは軽い気持ちで頑張ってなんて言わない方がいいパターンかも。

カエル化どころかオタマ化している彼がこれ以上凹むとタマゴになってしまう。


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