4-1 ガーベラ~挑む心~その1
いま、この人に必要なのはなんだろう。
私ができることはある?
目の前のオタマジャクシくんの絶望的なメンタルの弱さ。
こんなんで大きなコンテストなんて乗り切れるのかしら、どうしたら自信を持てる?
こんなオタマに冷めない自分がもっと謎だけど。
私は何をしたかった?
この人をもう一度振り向かせたかった。
品川のホテルで捨てられたと思ったら勘違いで。
思い切って彼の部屋に飛び込んだらGは出るわ、拒否られるわ。
嫌われたかと思ったらひと晩中、名前呼んでくるし。
私が勘違いしなければ普通に付き合ってたかもしれない。
私は捨てられたと思ったけど、彼にしてみれば捨てたのは私の方ってことになってるはず。
きっと彼は「ああ、またか」とそれを受け入れた。
そして私を忘れようとした。
私がそうしたように。
ケンジの細い綺麗な指を手に取った。
この指だけでも得難いものだって思う…でも本人にはわからない。
「香菜さん?」
「綺麗ね、それにとても器用」
「指はよく褒めてもらいます」
ケンジは子供のように嬉しそうに頷いた。
ああ、コレかもしれない。
私も一つだけ自慢できるところを推してくれて、すごく嬉しかったもの。
「ここから生まれる物があるってすごいことよ、誰でもできることじゃない。ギフテッド、神様の贈り物だわ」
「僕程度のフローリストは山ほどいますけどね」
「でも、私にとっては違う。いま考えてたの、私はなんでこんなオタマジャクシが好きなのか」
「すみません、オタマで」
「それでね、最初に目が留まったのは指先だったなって思い出したの。ただの花がリースや花束になっていくのは魔法のように楽しかったわ」
「そうなんです、だから僕もこの仕事が好きなんです」
「私はこの指で触れて欲しかったんだと思う。だからあんな無茶を、嫌がるあなたをホテルに引っ張り込んだ」
ケンジはわかりやすく赤くなった。
やだぁ、か・わ・い・い。
「えっと嫌がってはないです、帰ろうと思えば帰れたし。それに香菜さんに気付いたのは僕が先ですよ、よくお店の前を通ってたでしょ。いつか花を買いに来てくれないかなって思ってました」
「そう、じゃあ私たちの願いは叶ったじゃない」
「小さな夢です」
「自分を信じられない気持ちはわかる、私もそうだったから。でも私はあなたのおかげで夢を叶えられたわ。あなたが褒めてくれたから私は踏み出せた」
「僕が?」
「忘れたの? あのときなんて言ったか。あなたがいなくなった後もあの言葉だけは忘れられなかったのよ」
覚えているよね、たった一度、たった一夜のことだけど。
そして今度は私があなたに刻む番。
「あなたは選ばれた人よ、誰にも真似できない」
「選ばれた? 誰に」
「もちろん、私によ」
「まいったな。香菜さん、上げたり下げたり上手いから」
「そうよ、会社では陰のフィクサーって呼ばれてるんだから。ご不満?」
「すごく頼もしいです。でも、あの」
「なあに?」
「あんまり優しくされるといろいろ期待しちゃって」
「ばぁか」
私が選んだのは、ただ感じたこと思ったことを話すだけ。
きっとあのときの彼がそうだったから。
届いたかどうかはわからないけどせめてカエルになっておくれ。




