3-5 ラナンキュラス~蛙~その3
「あんまりいじめないでください」
「私のこと好きじゃないって言うなら諦めたのにねー」
「だからですよ」
「どういうこと?」
「香菜さんと僕が出会ってもただの客と花屋のはずだったのに、僕のこと好きだとか言ってくるなんて思いもよらなくて」
「えっと自分が好きになるのはよくて人に好かれるのはダメなの? どんなプレイよ」
「いやプレイって、そうじゃなくて臆病なだけです。また捨てられちゃうのかと思うと」
「捨てられるって、元カノのこと?」
「僕は両親にも捨てられました」
ケンジが表情も変えずにぼそっと言ったので聞き逃すところだった。
もう感情が動くこともないほど遠い言葉、にしては重い。
「親御さん、亡くなったの?」
「生きてますけど、離婚して二人とも再婚しました。どちらも僕を引き取りたくないって押し付け合ったそうです」
「ありえない!」
「親だからって無条件で子供を愛してるわけじゃないです」
(いや、こんな可愛い子を押し付け合うって、取り合うならわかるけど)
「まぁ、何か事情があったんだとは思います」
気の毒とは思うけど私はかなりムカついた。何より私が同類と思われたってことが。
「それで私もそうすると思うの?」
「わかりません。でも僕には花くらいしか取り柄がない、最初は珍しがって近づいてきた人もたいてい飽きてしまう。今日も堀内さんと会うんだなと思ったら、また捨てられるのかって焦っちゃって。すみません、めんどくさい奴で」
「確かに今日はおかしかったわね。それでコンテストがどうのって話になるの?」
「次のコンテストはいままでのローカルのとは違ってかなり大きいです。上手くすればスポンサーがつくかもしれないくらい。そしたら香菜さんとちゃんとお付き合いしたいって言えるかもしれないと」
「ダメだったら?」
「香菜さんのことは諦めます。せめてそれまで堀内さんとこに行くのは待ってもらえないですか」
人のことは言えないけど、どうよこのこじらせ具合。
諦めますって言いながら泣きそうじゃない。
「別に私は肩書なんて気にしないけど」
「僕はって言うか、たいていの男は気にしますよ。逆玉狙ってるヒモ男に見えるでしょ」
(わからなくはないけど…しょうもなっ)
「わかったわ、自信はあるのね」
「いえ、いや、ハイ」
「私は手伝わない方がいいの?」
「花のことは大丈夫です。でも他のことは教えてください、僕は知らないことが多すぎる」
ほんっとめんどくさい人。
でも私はこの人を勝たせなくちゃいけなくなったようね。
目的がはっきりしたのはけっこうなこと。
クライアントの納期は守らなくっちゃ。




