3-4 クレマチス~策略~その3
「幸運もあるけど…ある人がね」
こんなこと言わない方がいいのはわかってたけど言わずにいられなかった。
「私にはデザインの才能があるって言ってくれたの、だから頑張れたのよ。お世辞でも私にそんなこと言ってくれた人はいなかった」
「それがあの花屋さんってわけか、惚気られたかな」
タカシは笑いながらテーブルの上に小さな黒いケースを置いた。
「これはお返しするよ、名探偵さん」
私は首を傾げてみせた、悪いことしたなんて思ってない。
まさか二股と盗聴が等価交換だと言うつもりはないわよね。
「花屋さんに見せたら、笑ってたよ。彼女らしいって」
「わざわざ会いに行ったの?」
「君とヨリを戻したいって言ったら凄い目で睨まれた」
「まさか、私は彼にフラれたのよ」
「それで友達になったって?」
「推しの方が近いかも。世界でただ一人、私を褒めてくれたわ」
「僕もずいぶん褒めた気がするんだが」
「そうね、お上品だとか教養があるとか、でもそれって本当に私かしら」
「なるほど、僕はまるでわかってなかったわけだ。もう少し長く付き合えれば」
「大澤さんのように?」
「彼女とはとっくに別れたよ」
「よく別れられたわね、上司なんでしょ」
「ようするに捨てられたんだ。運命の人が現れたんだそうだ」
「いい気味」
「ひどいな」
タカシは付き合ってた頃よりくだけた話し方をする。
お互いにもう先がないのがわかってるからかもしれない。そうね、せめて最後くらいは本音で話したいものね。
食事を終え、店を出て歩き出す。
タカシはお参りがしたいと言って近くの神社の参道に入って行った。
並ぶ二つの影は、睦まじい恋人同士に見えるかもしれない。
「ねえ、何故いまさら会おうなんて思うの? 答えはわかってたでしょ」
「男ってのは未練がましくてね、きちんと終わらせないと先に進めないんだ」
タカシは立ち止まると私に向かい合った。
「君ほどの人にこの先会えるとは思えない」
「よく言うわ」
「本当にそう思ってるんだけどな、じゃあ最後に」
タカシが差し出した手を私が握ると、彼は一歩だけ私に近づいた。
「さっきから後を付けてくる人がいる」
タカシが耳元で囁いてきた。
確かに後ろから近づいてくる足音が聞こえる。
次の瞬間、その足音が走り出す音に変わった。
私が振り返ると同時にタカシは私の肩を引き寄せた。
白い息を吐きながら参道の階段を駆け上がってくる男が見える。
(え?)




