3-4 クレマチス~策略~その2
クリスマスに届けた花は少しは効果があったのか。
忙しいからと言い訳していた香菜が会おうと言ってきた。
バレンタインデー
本来なら期待していい日だが、きっとこれが最後になるだろう。
指定してきたのは初めて二人だけで行ったエスニックの料理屋。現れた彼女はそのときと同じワンピースを着ていた。けれど髪にメッシュを入れ、化粧も変わっているせいかまったく印象が違う。
綺麗になったな
と思ったけれどさすがにそれを口には出せなかった。
言えば未練だと思われそうだ。
ただ「相変わらず素敵だね」と常套句を言うと香菜は品のいい笑みを返してくれた。
何事もなかったようにお互いの近況報告、仕事の話に相槌を打ち興味深げに頷く。けれど香菜の目がもうずっと遠くを見ているのがわかる。梢に止まる今にも飛び立ちそうな小鳥を見上げているみたいだ。
食事が終わってコーヒーが出て来たとき、一瞬だが香菜から笑顔が消えた。
あのフレンチレストランでの乱入を思い出したんだろうか。
(潮時だ)
僕はポケットから黒い小さなケースを取り出した。
「これはお返しするよ、名探偵さん」
香菜は面白そうな顔をして首を傾げた。悪いことをしたとは微塵も思っていないらしい。
まったく間の抜けたことに、この年末に大掃除するまで気付かなかった。これが何かわかったとき『謎はすべて解けた』というわけだ。
彼女が何も言わずに去ろうとしたのはすべてを知ったから。
プライドなのか思いやりなのか、僕をなじろうとすらしなかった。
◇ ◇ ◇
一度タカシと行ったことのあるエスニック料理屋へ、タカシはもう席について待っていた。
今日のワンピースはタカシと初めてデートしたときに着ていったもの。髪の色を変えメイクを変えた今の私にはきっと似合わない。でもタカシは礼儀正しく「今日も素敵だね」と言ってくれた。
タカシが付き合っていた私は幻想で、それは私が勝手に男はこういう女が好きでしょって思い込んでた姿。
今の私をあなたはもう世間知らずの香菜ちゃんとは思わないでしょう。世間知らずで『都合のいい』香菜ちゃんとは。
食事の間も私たちは穏やかに世間話をしていた。
あの日、あのフレンチレストランで、タカシと同じ空間にいることさえ耐えられなかったのに、どうして私はこんなに静かにこの人と話せるの?
「なんだか変わったね」
「そう? 職場が変わったからかしら」
「好きな部署に異動できたのはラッキーだったね」
ラッキー、幸運なんかじゃないよ。小さな努力だけど積み重ねてきたのにあなたにはわからないのね。私が兄にゴネて無理矢理デザイン部に割り込んだと思ってるのかな。
少なからずイラっとした。
(そういうトコだぞ)
あんなことがなくても、この人とはうまくいかなかったかもしれないわ。




