3-4 クレマチス~策略~その1
ケンジを振り切るように店を後にしたのは、もう限界だったから。
まだ動悸が治まらない。
男の頭の中なんて90%エロいことばっかり考えているんだろうけど、やっぱりバカだ。ちょっと覗けば丸見えになるようなガラス張りの店で何してくれるのよ。
しかも
あんな
可愛い顔で!
まさか美容室で髪切っただけで、あんなに私の"どストライク"になってしまうなんて。前から整った顔だなとは思ってたけど想定外過ぎ! 直視できないぃっ。
でもダメだから、まだ許す気ないから。
私を逃がしたのが大間の鮪くらい大きかったって思い知らせてやる。
手首にまだ彼の手の感触が残ってる。
これから作戦会議だというのに落ち着けワタシ!
プリザーブドフラワーのボックスを抱えて私は待ち合わせのカフェに向かった。デザイン部の女子たちが揃って待っている。恋バナはいつだってどんなスイーツより美味しいから集まりのいいこと。
「はい、これが雪恵チーフの誕生日プレゼント」
「わぁ、綺麗なお花!」
「さすが香菜ネエのカレシ」
「カレシじゃなくて推しだから」
「はいはい。でも、いいの? 香菜ネエが連れてけって言うから美容室に行ったけど」
「あんなにイケメンになっちゃって。あれは他の女がほっとかないよ」
「SNSなんかに顔出ししたら大変だって」
「彼は私の推しだもの、人気が出てくれたらそれはそれで」
「へえええええ、余裕~」
「さすが闇のフィクサー」
「闇ゆうな、陰のフィクサーだってば」
「でもさあ、どう見てもケンちゃんって香菜ネエにべた惚れよね」
「どうしてこんな回りくどいことするの?」
「女と付き合うと作品がダメになるんですって」
「えー、めんどくさ…あ、ごめんなさい」
「いいのよ、メンタル弱々で困った人ね」
「で、あたしたちはどうすればいいの?」
「ときどき花屋さんを覗いて、悪い虫がつかないように見張ってほしいの。彼のシフトじゃないときでも、噂とかチェックしてみて。あの人慣れてないから、女の子に簡単に押し切られちゃいそう」
「あはは、目に浮かぶ~」
こうして彼女たちに情報公開したのは助けてもらうためだけど、同時にケンジに手を出させないためでもある。まさかとは思うけど念のために。
「お世話かけます」
「こちらこそ、香菜ネエにはお世話になってるもん」
「私が?」
「香菜ネエが時間のかかりそうな案件を担当してくれてるから、うちら残業しなくてすんでるし」
「それはみんなは残業代が付かないし、私ができることはまだ多くないから当然よ」
「そこ、けっこう大事。仕事が効率よく回るように段取ってくれてるよね。おかげでプライベートが充実してるの」
「だから香菜ネエのためならひと肌脱ぐわよぉ」
そんな裏方仕事に気付いてくれてるとは思わなかった、みんな勝手してるようでちゃんと周りが見えてるのね。人に恵まれてる…いや雪恵チーフの見る目が確かってことか。
それにさ、男運がゼロの代わりに女運くらいよくないと割に合わないわ。
「そう言えばコレ誰かの忘れ物? いつの間にかバッグに入ってたんだけど」
帰り際、私は思い出してバッグから小さなビニール袋を取り出した。
「えっ、イヤホンの片方だけ?」
「香菜ネエ、これダメなやつだわ」
「ネットで見たことない? ストーカーが位置情報知るために『イヤホンを探す』機能を使うって」
「げっ! キモッ。でも私にこんなことする人なんて心当たりないわ。どうすればいいの?」
「イタズラかも。捨てちゃうか、警察に落とし物で届けるとか」
「実害がなければ捜査はしないけど記録には残るし。気を付けてね、香菜ネエは見た目が大人しそうだから狙われやすいと思うよ」
「悪かったわね、見た目だけで」
やっぱり女子だけのお茶会は気楽。ほんとはこのまま飲みに行きたいけど、バレンタインはみんな予定があるようで。
そして私も、今日のメインイベントはこれから。




