3-3 チョコレートコスモス~変わらぬ心~その3
「何かあったの?」
「最近、不安で、そのコンテストが近くなって、今度のは全国規模なんで」
ウソだった。本当のことなんか言えない。香菜さんに他の男のとこに行ってほしくないだけだなんてカッコ悪すぎる。
「まさかと思うけど、私とホテルに行けばいい成績がとれるとでも思ってるの?」
「いや、そういうわけでは…でも、まぁ、できるものなら」
「はあっ?!」
「ごめんなさい、冗談です」
「バッカじゃないの」と呟くと、スマホを操作して彼女は一枚の絵を検索してきた。
「これは知ってる?」
「教科書で見たことある、確か『裸のマハ』」
「こっちは?」
「『着衣のマハ』ですね」
「ピンポーン。ではどっちがエロいでしょうか」
「それは裸の方が…いや、服を着てる方が逆にそそるというか」
「クイズじゃないから、どう思うかでいいのよ」
「着衣の方かな」
「いま、私の想像したでしょ」
「ごめんなさい」
ああ、やっぱり罠だった。でも香菜さんは少し笑ってくれた。
「これは私見だけどね、『着衣のマハ』は『裸のマハ』を隠すために描いたって言われてるの、つまり立て前。ところが『着衣のマハ』の方がエロさを感じたりするのよね」
「本音と立て前が逆転してる」
「花で何かを伝えるのって色や形を使って頭の中にあるものを作り出す作業じゃないかしら。あなたの本音を花という立て前に映し出す」
「それだと僕はすっごい恥ずかしいことになるんですけど。頭の中を全世界に披露するってことですよね」
「それができるのがアーティストなんじゃないの?」
彼女が言っているのはたぶん、僕の”往生際の悪さ”なんだろうな。人の心に響くモノを作れる人はそんなことでウジウジしない。僕はまだアーティストではないんだ。
「美容室に連れて行ったのは、見た目で引け目を感じるようなことがないように、自信を持ってほしかったから」
「まだ慣れないです。毎朝、鏡を見るたびに誰だコイツって思うし」
「早く慣れてね。それからもらったものを雑に扱わないで。箱に入れるのはともかくバックヤードに隠しておいて、ファンに失礼よ。そしてホワイトデーのお返しはちゃんとして」
「正直めんどくさいです」
「あなたが有名になったときに推してくれる大事なファンになるんだから。一輪コサージュはどう? おカネもかからないし練習になるでしょ」
「髪切ったくらいで集まってくる人なんて」
「それがきっかけで花を好きになってくれるかもしれないわ」
完敗、まるで先生に怒られてる生徒だ。
スマホで時間を確認すると「じゃあね」と言って香菜さんは店を出て行ってしまった。
「誰に会いに行くの?」なんて訊けない。
僕には彼女を振り返らせる手立てはなにもない。




