3-3 チョコレートコスモス~変わらぬ心~その2
トシくんが言うほどではないが、今年のバレンタインはチョコをくれる人が増えた気がする。ほとんどが明らかな義理チョコなので気楽にもらうことができるが、なかには気合の入ったチョコもある。ちょっと髪切ったくらいで女の子ってのは簡単なもんだ。
どうせホワイトデーに何もしなかったら、気が利かない男だとわかって来年からはそんなモノ好きはいなくなるだろう。それでいい。
次のコンテストは絶対に落とせない、余計なことを考えてる暇はないんだ。
14日の夕方になると義理チョコを持って香菜さんがやってきて、店の隅の箱にチョコが山になっているのを見つけると「トシくんの分ね」と言ってそこにポイっと放り込んだ。
「頼んでおいたお花はできてますか?」
「プリザーブドのボックスですね」
僕はバックヤードから注文された花を持ってきた。
「ありがとう、イメージ通りだわ。とても綺麗」
「プレゼントですか?」
「ええ、そうよ」
ピンクのバラ、ガーベラ、アルストロメリア、みんな感謝と将来へのポジティブなイメージ。華やかで幸せを暗示する花だ。
「明るい組み合わせですね」
「ちょっと能天気な感じもするけど」
「ブラックベリーが引き締めてます、さすがです。きっと喜ばれますよ、お友達ですか?」
「友達と言うか」
言葉を濁した彼女にそれ以上、訊けなかった。
もし、その口から堀内さんの名前が出たらどうしよう。いや、どうしようも何も僕にはどうにもできない、私の勝手でしょと言われればそれまでで。
そう言えば今日はシックなワンピースを着ている、最近はカジュアルな服装が多かったのに。アイツの前ではまだ猫被る気なのか?
「その服、ステキですね。今日はどちらへ?」
「赤坂でお食事よ、エスニックだからドレスコードはないけど、さすがにディナーでパンツはまずいかなぁって」
「なんだかお嬢様みたいですね」
しまったと思った、香奈さんが嫌いな言葉をわざと使うなんて。
「たまにはいいでしょ、バレンタインだし」
微かだけど怒りが込められた声。
その言葉を聞いたとき、何故そんなことをしたのか自分でもわからないけれど、気付いたら彼女の手首を掴んでいた。
子供じみた僕の衝動に彼女は驚き呆れて目を大きく見開いている。
「どうしちゃったの?」
彼女はその手を振り払わなかったけれど、とても迷惑そうな顔をして言った。
「離して、ここがガラス張りだって忘れたの?」
そう言われたのに僕は手を掴んだまま彼女を見つめて言葉が出なかった。
「いい加減にして」
彼女のイライラとした冷たい声が聞こえ、左足の先に激痛が走って僕は突き放された。
「痛って!」
「何なのよ、いったい」
彼女はそう言うと僕に椅子に座るように(ハウス!)と指で合図した。




