3-3 チョコレートコスモス~変わらぬ心~その1
「ケンちゃ~ん!」
(ケンちゃん?)
小学生以来だ、しかも女子に。
「何事ですか?」
「香菜ネエに頼まれたの」
2月に入ったある日、香菜さんの先輩たちが昼休みに現れて僕は美容室に引っ張って行かれた。
「だってもうじきコンテストでしょ」
「いや、僕はこんなこと」
「おカネなら香菜ネエから貰ってるから」
そう言って取り出したのは僕が香菜さんに渡した封筒だった。
(えええええ?)
僕はあっと言う間に椅子に縛り付けられ、髪をチョキチョキと切られてアッシュに染められて海藻みたいなパーマかけられて、最後に鏡を見たらとんでもなくチャラい男が映っていた。
「きゃー、カッコイイ!」
「ガチイケメン、顔面つよっ」
「ちょっと待ってください、僕が出るのはフラワーコンテストで」
「そんなの知ってるわよ、でも上位入賞者はみんなかっこいいもん」
「あれって絶対ビジュ関係あるって」
「そうかなぁ」
「香菜ネエが言うんだから間違いない」
新しい職場では香菜さんはとても人望があるようで、それはけっこうなことだが、何で僕がこんな目に会うんだ?
おまけにその値段ときたら…
(もったいない! 牛丼が何杯食える)
花屋に戻ると留守番を押し付けられた後輩のトシくんが、香菜さんとのんびりお茶をしていた。
「先輩! かっけーすね」
「思ったより上出来だわ」
どう見てもいじられてるとしか思えないのだが。
大きな大会だとコンテストの上位入賞者はメディアに取り上げられるし、メーカーがスポンサーに付くこともあるから見た目に気を配るのはわかる。しかしそれは実力が伴わないとただのイタイ奴ではないのか?
「あの、僕…大丈夫ですか?」
「とても素敵だと思うけど、大丈夫かどうかはあなた次第よね」
ようするにもっと励めということか、香菜さんは満足そうに笑ってそそくさと帰って行った。
「先輩のファンが増えちゃうなぁ、まいったなぁ」
「なんでトシくんがまいるんだ?」
「だってもうじきバレンタインですよ、僕のチョコ減っちゃうかも」
「チョコ好きだっけ?」
「違いますよ、男の勲章でしょ」
「ガキかよ」
そう言えばトシくんはけっこうな数のチョコを貰ってたな、僕は生徒さんから義理チョコしかもらったことないが残念とも思わない。ホワイトデーにお返しするのがめんどうなんでむしろ貰いたくない派なんだが。
「そうだ、逢沢様からご予約いただきましたよ、プリザーブドのボックス。14日に取りに来るって」
「へえ、プレゼントかな?」
「ピンクのバラを中心にしてって絵を描いてきてくれました。すごいお洒落な色合いで。あ! 先輩にプレゼントだったりして」
「花屋に花を贈らないだろ」
「それもそうっすね、じゃあ誰だろ。1万円くらいのだから義理チョコ替わりじゃないっすよねえ」
義理チョコじゃないってことはそれなりの意味があるプレゼントなわけで、バレンタインのデートで渡すとなれば、それはそういうことなわけで。
(いや、何の権利もないくせに何言ってんだ)
僕は悩むことすら許されていない。




