1-2 ラナンキュラス~華やかな魅力~ その2
「逢沢さん。お時間、大丈夫ですか?」
いつも教室が終わってもぐずぐずと帰らない私に、さすがに桜井氏はワケアリと気付いただろうか。
「すみません、いつも遅くまでご迷惑ですよね」
「そんなことないです。お時間あるならこの作品の感想とか聞かせてもらえます? コンテスト用なんですが」
「いやいや、私はシロウトですから」
「いいんです、逢沢さんの感覚で思うままに言ってみてください」
差し出されたそれは背の高いガラスの花器に生けられたアレンジメントだった。アレカヤシやアンスリウム、セルリアなど個性強めの花材を使っているがとても調和して見える。
これにシロウトが口出ししていいものなのか…。
「すごく綺麗でまとまってますけど、コンテスト用ならもっと遊んでもいいんじゃないでしょうか。何かこう花にこだわらずに自由な発想で具体的なモチーフを、あ、すみません偉そうなこと言っちゃって」
「具体的なモチーフ? 例えば」
私の言葉にはかまわず、桜井講師は興味津々という顔で訊いてきた。
「この広がりから言うと、鳥とか虹とかいっそ龍とか、空へ向かうイメージが浮かびます」
「ああ、やっぱり逢沢さんにお聞きしてよかった」
「そうですか?」
意外な言葉に私は驚いた。こんなシロウトの話を真面目に聞いてくれるとは思ってもいなかったのだ。そういえば私の話をこんなに真剣に聞いてくれる人っていたかしら。
「僕も何か足りない気がしてたんですけど、ピンと来なくて。すごいなぁ逢沢さんは」
「そんな私なんてぜんぜん」
桜井氏は微笑み、店の奥に引っ込むとティーカップを持って現れた。
「お疲れじゃないですか?」
そう言って渡されたのはレモングラスが香るハーブティーだった。
「技術的なことは練習すればある程度できるようになるんですけど、感覚とかアイデアとかってなると練習だけでは。逢沢さんは独特の世界を持ってるんですね」
さすがにそれは言い過ぎな気がして頬が赤くなった。もちろん教室の生徒へのリップサービスに決まっているので、私は笑みを浮かべて首を振っただけだったのだが。
「逢沢さんは絵を描いてたんですよね、美大とか行けば」
「いえ!」
私は反射的に叫んでしまった。
「ごめんなさい」「すみません」
私たちは同時に謝った。
私は急に声を荒らげてしまたこと、彼は立ち入ってしまったことに。
ただ、こういった感覚が共有できるってとても大事なことに思え、私たちは微笑み合った。




