1-2 ラナンキュラス~華やかな魅力~ その1
リースを貰った夜、よかったらどうぞと差し出された花屋のチラシは、フラワーアレンジメント教室の告知だった。
褒められたのに気を良くしたわけではないが、申し込むことにしたのはタカシの誘いを断るのに使えそうだという目論みだ。
私の勤め先は兄の会社で、いちおう事務員として雇ってもらってはいるが誰でもできる、いや、私よりもっと優秀な人ならあっと言う間に終わらせられるような仕事ばかり。
つまり私はほとんど定時で帰るので、積極的に何かしらの用事を作ってタカシの誘いをかわさなければならない。
何も知らないタカシは以前と同じように誘ってくるが、いまは会う気に…とくに夜のデートに行く気にはなれず。毎度、断る口実を考えるのも面倒だし、習い事を始めるというのはいいアイデアに思えた。
「お友達に誘われてフラワーアレンジメントと料理教室に行くことにしたの」
そんなメッセージを送って会う回数を減らそうと思ったのだが、どうやら花嫁修業を始めたと思われたらしい。やたらと甘ったるいメールが来るようになった。
会う間隔を空ければそのうち察してくれて、フェードアウトできるかもと考えたのだがそれは考えが甘かったようだ。
「講師の桜井ケンジと申します、よろしくお願いします」
夜のデートに誘われないように、一番遅い時間のレッスンを予約することにしたら、あのリースをくれた店員さんが講師だった。
生徒はみんな女性で5人ほど。講師の桜井氏は愛想よく根気強く、おしゃべりばかりしている生徒に教えてくれる。
「ラナンキュラス、今日はこちらをセンターに置いてみましょう。花弁が幾重にも重なる艶やかなこの花は、華やかさと可愛らしさを併せ持っていて、花言葉は『華やかな魅力』や『名声』『幸福』の他に『合格』の意味もあります。プレゼントにぴったりなので是非覚えていってください」
生徒たちは思い思いに花を手に取って、今日の課題『小さなブーケ』を作り出した。もちろんそれ自体は楽しい作業だ。出来上がった花束をSNSに上げるのも…上手くできれば楽しいはずだ。
しかし正直言って、私は器用な方ではない。いつも教室で作った花束は家に帰る頃には崩れてしまう。
苦手なのはすぐにわかってしまうだろう。もしかするとここに通うのが口実で、本当は全然やる気がないのまで見透かされるのではとさえ思ってしまう。
もちろんそんなことを思うのは自分が後ろめたいからで、桜井講師がそんな個人的な詮索などするはずもない。
それでもとにかく遅く帰りたかったので理由を作っては質問していた。熱心な生徒と勘違いされたようだが、タカシに会う気まずさを考えるとそれくらいなんでもない。
(とことん卑怯だよね)
タカシにすべてぶちまければ一瞬で終わるのに、嫌な女だと思われたくない。「ご縁がなかった」とか「タイミングが合わないね」みたいな曖昧な別れ方で傷つくのを避けようとしている。
もうとっくに傷だらけだというのに。




