3-2 クロユリ~恋の魔法~その3
もっとも、香菜さんの知り合いで一番驚いたのは堀内さんだ。
あの様子ではてっきりフラれたと思ってたが、わざわざ僕に会いに来た彼はかなり好戦的だった。香菜さんがこの店に通い出したので何か勘ぐっているのか?
「香菜とは上手くいってるのかい」
「香菜さんはお客さんで友達のひとりです」
「じゃあ僕らがヨリを戻してもかまわないんだね」
「それは難しいと思いますよ。彼女すごく怒ってましたから」
「これのせいかな」
堀内さんはポケットから黒い小さなケースのようなものを取り出して作業台の上に置いた。
「なんですか?」
「盗聴器。僕のクルマにあったからたぶん香菜の仕業だね」
彼はカードゲームでジョーカーでも出すかのようなつもりだったのかもしれない。確かにあのお上品なお嬢様に似つかわしくないアイテムだ。
驚いて欲しかったんだろうけど、僕はそれを見て笑ってしまった。
「可笑しい?」
「いや失礼、彼女らしいなって思って」
「彼女らしい? 僕は少なからずショックだったよ」
なるほど、彼の中では彼女はまだ白い可憐な花のようだ。
「確かに見た目とのギャップはすごいですよね」
「男運が悪いって話は聞いてたけど、まさかここまでするとは」
「でも僕の知ってる香菜さんならやりかねないです。あなたは呆れましたか?」
「いや、新しい魅力だと思うことにするよ」
(この人、懲りねえな)
香菜さんは詳しく話さないけど、あの日の取り乱しようから見ると女絡み、盗聴器で知ったということは動かぬ証拠があるってこと。彼女の誤解じゃないわけだ。
それなのに本気でヨリを戻す気なのか? 成功する可能性は低いぞ。でも普通に考えれば僕よりこの人の方がお似合いなのは否めない。
(嫌だ、渡したくない)
自分でも驚くほど強い気持ちが沸き上がってきた。
友達でいようなんてキレイごとだ。
ただ僕が臆病で踏み出せなかっただけで、僕はずっとあの人に魅せられていた。
それでも指をくわえてみているしかないなんて。
「香菜さんのこと、まだエーデルワイスに見えますか?」
「いや、同じ高嶺の花でもクロユリだね」
「そうですか」
彼も多少は花のことを勉強したらしい。クロユリは高山植物で確かに『高嶺の花』だけど『恋の魔術』なんて神秘的な花言葉がある。
ある意味香菜さんに似つかわしい花だ。
でも少しだけほっとした、この人も本当の彼女を知らない。きっと彼女は猫被ってるんだな。
あのときの彼女は氷さえ溶かして咲き出る深紅のバラだ。




