3-2 クロユリ~恋の魔法~その1
クリスマスの朝
香菜さんはいなくなっていた。
スマホを見ると彼女からメッセージが入っている、ブロックが解除されたようだ。
>お休みのようなのでこのまま失礼します
もう1時間も前だ、僕は慌てて返信した。
>ごめんなさい、送れなくて
>大丈夫ですか?
>何も問題ありません
>またお花の教室に通っていいかしら
>友達として
>はい、お願いします
OKサインのスタンプが送られてきて話は終わった。
アプリを閉じ見回すと部屋の中はいつにも増してガランとして見えた。
(なんで眠っちゃったんだろ)
あの朝もそうだったのか。
一人ホテルに取り残され、所在なく不安で、誰にもぶつけられない思いを抱えて、香菜さんは辛かったはずだ。あれは彼女の早とちりで誤解だったけど、それは仕方ないことだったとやっとわかった。
それにしても、眠っちゃうなんてひどい失態だ。
(温かかったんだ、だから安心して眠くなっちゃって)
きっと呆れられただろうけど、せめて友達としてだけでも誠実でいよう。彼女はちゃんと僕に向き合ってくれたんだから。
そしていつか…。
(僕があなたに相応しければ良かったのに)
僕は自分から逃げたんだから、全部手遅れかもしれない。でも微かな望みは僕が独り立ちして、彼女に恥ずかしくないフローリストになること、それまで彼女が他の人のモノになっていないことも。
自分勝手な望みだけど、彼女の男運の悪さに賭けるしかなかった。
◇ ◇ ◇
朝、動き始めた電車で家に戻った。とりあえずシャワーを浴びなきゃ。
ほぼ徹夜で朝帰り、学生時代でもやったことない。
雪恵さんになんて報告しようかしらん。
水温は少し熱めで水圧を強くして、頭を叩いてもらう。ほんとに何やってんだか。
正面突破しようとして玉砕なんて、アラサーにもなって不器用すぎる。それもお互いに。
だって彼はベッドの中で、私を抱きかかえたまま耳元で「香菜、香菜」って呟いていた。何かあるかと期待するじゃない。
でもなんで、そこで寝ちゃうのよぉ!
私も私でここまで女としてコケにされたのに、なんで「友達として」なんて未練がましいこと言っちゃったかなぁ。きっと昔の友達なら「なんでそんな男に?」って言うだろうな。「ただの花屋の店員じゃない」って。
けれど、彼とは一度切れた糸がまた繋がった…それを離したくない。
一晩で一気にダメなところをたくさん見せられたのに、嫌いにならないのも不思議。
いままでの男たちは、なんというか、根っこのところでアウトだったけど、この人はそういうのとは違う気がする。少なくともお金関係はキレイだわ。ちょっと頑固だけど。
それに月明かりの中に浮かんだ彼の横顔。前から顔立ちはいいなとは思ってたけど、間近で見たらドキッとしちゃった。磨けば光るって感じは捨てがたい。
(プロデューサー魂をくすぐるのよねぇ)
『男を見る目はない』のは認めざるを得ない。ただ、この人はダメなところはいっぱいあるけど、まだ腐ってないって言う感じがする。それなら私が『ダメ男』→『いい男』にすればいいんじゃないかしら。
シャワーを止める頃には敗北感は消えていた。
どころか、次の一手が見えてちょっと楽しくなってきていた。




