2-5 カスミソウ~謝罪~ その2
(落ち着け)
私は花束を抱えて近づいてくる桜井ケンジを見つめていた。そう、彼はただ花を届けに来ただけ。でもなんで? いまさら。
「堀内タカシ様からです」
タカシ?
私はさらに混乱した。タカシの花束を届けに来たってどういうこと?
「困ります、持って返ってください」
「でも、堀内さんはとても一生懸命に選んでましたよ」
「私はそんな白い花が似合うような女じゃありません」
「そんなことないですよ。花に罪はないんで受け取るだけでもお願いします」
「わかりました」
私は仕方なく受け取った。
「あの、それからこれは僕から」
さらに彼は小さな花束をもう一つ差し出した。
ピンクのラナンキュラスと紫のスイトピー、そして封筒を一緒に渡されて嫌な予感がした。
「これはなんですか?」
「あの、ずっと返さなくちゃって思ってて遅くなってごめんなさい」
「は?」
「あのとき持ち合わせがなくて、ホテル代やタクシー代がまだ」
「はあ?」
(何言ってるの?)
「あの日はどうしても遅刻できなくて、メモ書きで失礼しちゃったから払う機会がなくて。後で調べたらあのホテルは一泊3万くらいするって…全然足りてなかったんで申し訳なかったです」
「それは、必要ないです」
「だめですよ、もうこれできれいさっぱり僕もあの日のことは忘れます。それで堀内さんに会ってあげてください」
「大きなお世話です、あの人が何したか知ってるんですか?」
「それは知りませんけど、許せないならそれはそれでちゃんと話してあげてください。とても辛そうでした」
「言われなくても彼とはいつかは話し合うつもりです」
(違う!)
話したいのはタカシのことじゃない、あなたはどうなの? 本当にあなたは私を忘れると言うの?
「そうですか、よかった。じゃあ失礼します」
(待って)
追いかけようとして留まった。この辺りの家はみんな防犯カメラを付けているのを思い出したのだ、もちろんこの家だって。
彼は会釈するとワゴン車に乗り込み去って行った。
(あの1万円は私の値段じゃなかったんだ)
『不器用な誠実さ』少なくともあの人はいままでの男たちとは違う。そして私は気が付いた『安堵の気持ちと喜び』で胸が高鳴っている。乙女かっ!
(ホントはずっとあの人に会いたかった)
忘れると言った言葉は嘘だと思った。だって、紫のスイトピーの花言葉は『永遠の喜び』だから。




