2-5 カスミソウ~謝罪~ その1
クリスマスイブの夜は忙しい。
こんな裏通りの花屋でも長いことやっている店だから配達の注文は多いし、予約の他に飛び込みの客もけっこう来てくれる。今日はいったいいくつ赤いバラの花束を作っただろう。
あの人はどうしているだろうか。
あれきり教室にも来ないし、店の前を通りかかることもない。
やはりひと時の気の迷いだと…わかっていたことだけど。
「すみません」
夕暮れに現れた客、男の一人客は珍しい。慣れていないらしくきょろきょろと店を見回している。
「エーデルワイスみたいな花はないでしょうか」
「エーデルワイス?」
高山植物で日本ではまず自生していない。もちろんまるっきり季節外れだ。
「そうですね、白い花でしたらユリやバラ、イメージに近いのはクリスマスローズでしょうか」
「クリスマスローズ」
彼はスマホを操作して花言葉を調べた。
「それで花束を作ってもらえますか」
「はい、白ばかりでは寂しいので少し色を足しましょうか」
「いいえ、白一色でいいです。それと謝罪の意味のある花はありますか?」
「謝罪、カスミソウなら何にでも合いますよ」
「じゃあそれもお願いします」
30本ほどのクリスマスローズで作った大ぶりの花束が出来上がると、彼はうなずいてカードを取り出した。
「このカードを添えて、届けてもらえますか」
「配達もできますが、ご自分で」
「いや、今日は遅くなるって言ってたので。この住所へ、できたら手渡ししてもらえると」
届け先の住所と名前を見て僕は息を呑んだ。
まさかこの人、僕と香菜さんのことに気付いて? いや、あれからずいぶん時間が経っているのだからそれはないか。でも、たぶんこの人のせいで香菜さんはあんなに泣いていた。
「彼女、ここの教室に通ってましたよね」
「最近はいらしてませんが」
「そうですか」
「やっぱりご自分で渡された方がよくないですか?」
「たぶん会ってもらえない、とても怒らせてしまって。ただ、気持ちを届けたいだけです。こんなことをしても自己満足と言われればそれまでですが」
だからと言ってそれを僕が届けていいものなのか?
でも、僕も香菜さんに会いたい、もう一度だけでいいから。
花屋としてなら許されるかもしれない。ただ花を届けるだけなら。




