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2-4 クリスマスローズ~忘れてた人~ その3

挿絵(By みてみん)

そして季節は秋から冬へ、最大の繁忙期がやってくる。


ハロウィーン、ブラックフライデー、クリスマス、大晦日から正月、バレンタイン。日本人のなんとイベント好きなことよ。ここで稼がなくてどうする!

去年まではこのイベントに踊らされる側だった。しかし今年はコンシューマー様におカネを落としていただくために仕掛ける側だ。


(あれ? なんだかすごく楽しくなってきた)


佐山社長の言うように私はプロデューサーみたいな裏方が向いてるのかもしれない。


慌ただしく日々が過ぎ、コートがウールに変わる頃、社内の空気がだんだん浮かれ出す。やはり独身女性の最大のイベントはクリスマスだ。仕方ないことだけど浮かれ出すとどうしてもミスが起きやすくなる。


(去年のクリスマスも誰かがやらかしてたよなぁ)


「逢沢さん、あの」


しまった、フラグを立ててしまったか。

クリスマスイブの夕方、デザイン部はほとんどが仕事を終え定時で消えている。


「あれ、えーっと営業部の」


「はい、すみません。総務に提出するデータなんですが、現場から来たデータが間違ってたのか打ち間違えたのか、数字が合わないんです。直し方ご存じないですか?」


「それを、私に、訊く?」


「総務の人がみんな帰っちゃってて、逢沢さんは前に総務にいたってお聞きしたんで」


仕方なく私はデータを受け取って久しぶりにエクセルを開いた。


「ああなるほど、どこかでセルがずれたみたいね。原因はともかく数字を合わせることはできると思うわ」


「助かります! 明日の朝イチで必要なので」


「1,2時間ってとこかな、やっとくわよ」


「いえ、とんでもない。やり方を教えていただければ」


「だって」


私は彼女を見返した。綺麗にセットしたヘアに可愛らしいワンピ、爪には雪の結晶とサンタさんが描かれている。絶対これからデートだよね。


「いいからいいから、私は大した用事ないもの」


そう言ってトップコートしかしていないつるんとした自分の爪を見た。家に帰ればケーキくらいあるだろうけど、この歳でクリスマスに親とケーキって、とても人に言えやしない。


「ありがとうございます、この御恩はきっと」


「大袈裟よ、困ったときはお互い様ってね」


エクセルは苦手だが、ゆっくりやればできないことじゃない。ただし総務のベテランなら30分で終わる仕事を私がやると1時間以上かかる。たぶん営業の彼女も同じくらい。クリスマスイブにその残業は可哀想でしょ。


(情けは人の為ならずってね、なんかいいことあるかも)


スマホを確認するとタカシからメッセージが来ていたが、残業だからごめんなさいと返しておく。嘘じゃないけどちょっと後ろめたい。早く盗聴器を見つけて私に愛想尽かしてくれればいいのにね。


「さて、片付けますか」


クリスマスイブにちょっとした善行をして、1時間後に私は気分よく家路についた。


(あれ?)


自宅の前に小さなワゴン車が停まっている。外灯に照らされているクルマはFiat…ではない。

ガチャっと音がしてドアが開き、クルマから降りてきた人は大きな花束を抱えていた。白いクリスマスローズ、花言葉は「私を忘れないで」。


「逢沢香菜さん、お届け物です」


神様ひどいよ、これじゃ罰ゲームだわ。


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